川上弘美著「風花」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
不倫した夫から離婚を申し込まれたのゆりは、「好きだから別れたくない」と突っぱねたまま、曖昧で途方に暮れた気持ちを抱え日々を過ごして行く。やがて、不倫相手は夫を捨て、のゆりは夫の転勤先に付いていく。数年後、身辺を変えていったのゆりは、遂に別れる結論に至るが、別れを告げられた夫は動転する。

小説を読み始めて3ページ目の段階で、主人公と「気が合わない」と気付き、残る100倍のページ数を耐えながら読破。私は白黒つけたい性格なので、非常に鈍いペースで物事を飲み込んで行く主人公に、終始イライラしました。

のゆりは反応が遅く、感情表現も薄いので、とっくに過ぎたことを「もっとちゃんと怒れば良かった」と思い返すシーンで、「この人は怒っていたのか」と驚かされたくらいです。
夫の不倫を知った妻が、夫と別れたいのか否かも曖昧なまま、ただ暮らし続けているだけという前半は、正直呆れ果てます。
私は自分が女性なので、不倫する夫を擁護したくはありません。しかし自分が男だと仮定して、のゆりのような終始茫洋としたつまらない妻を娶ったら、不倫したくもなるだろう、と思いました。もっとも主人公だけでなく、登場人物は全員、なにを考えているのか分からない人々でしたが。

人物には一切魅力を感じませんでしたが、半年以上も「保留」状態を続けて、周囲の状況の方が変わっていく様は、自分から動かない主人公ならではの展開で少し面白かったです。心の揺れの描きかたも緻密で、等身大の人間を描いた作品ではあることは間違いありません。特に、別居して一人暮らしの部屋で、上がったままの便座に虚をつかれる箇所は、確かに覚えのある光景だと思いました。
それだけに、裏表紙の「恋愛小説」という解説には、疑問が残りました。

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