江國香織著「つめたいよるに」

ファンタジックで哀しく優しい、そしてスッと溶けて消えていくような短編集。
新潮文庫版では、単行本「つめたいよるに」から9編、「温かなお皿」から12編が合本されています。

犬好き必読”と言われている「デューク」目当てで読みました。
飼い犬デュークが死んで嘆き悲しんでいる少女が、不思議な少年と1日を過ごす、というシンプルなお話です。少年の正体に関しては、早い段階からヒントが散りばめられていて、誰でも正体に気付くようになっていますが、だからこそ答えを書かない、という作者の抑制が好印象でした。
愛犬を亡くした経験がある犬好き読者は、確かに共感できるでしょう。
私は日頃、夢をまったく記憶していないのですが、初めて飼った犬が死んでから三週間ほどしたある日、一緒に遊ぶ夢を見て目覚め、「ああ、最後に遊びに来たのだな」と妙に納得した経験があります。さすがに、犬の姿でしたが(笑)。

短編集なので、どのお話も一気に読めます。
全体的には淡々とした印象です。学生のバイト風景、休日の中年、幽霊と少年、恋人と女性と多彩なお話が収録されていますが、正直どれも似ています。非現実的な要素もあるため、一度冷めた視点で見てしまうと、つまらない印象を受けそうです。
しかし作者の感性、独特の世界観は面白いです。小説家というより詩人だとも思い、どことなく宮沢賢治作品の息吹を感じました。

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