坂井希久子著「ウィメンズマラソン」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
2年前、予期せぬ妊娠のためロンドン五輪を辞退し、日本中からバッシングを受けた女子マラソン選手・岸峰子。リオ出場を目指し競技に復帰した峰子だが、長距離ランナーの才能を見出した恩師は後輩の指導に力を注ぎ、目も向けて貰えない。それでも意地で走り続ける峰子は、五輪選考を賭けて名古屋ウィメンズマラソンに出場。勝負を通して、走りたいという自分の気持ちに折り合いを付けていく。

読了時の印象は爽やかな作品。
女性ランナー同士の戦いには陰険な要素もありますが、最も重要なライバルである後輩の辻本が、根アカで善良な点に救われていると思います。また、試合の駆け引きが正々堂々としたものなのも良かったと思います。

ただ、読んでいる間は気にせず楽しめたのですが、改めて感想をまとめようと思い返すと、主人公が陰険で、「甘やかされて育った女」としか言いようのない、嫌な部分を見せるのが気になりました。
そもそもの原動力が嫉妬。被害妄想が激しく、他人を批判する。自分の行動は棚上げする。自分からは謝罪しない。娘の育児は母親頼りにしておいて、娘の成長を見守れないと嘆いてみせる。愛想がない。etc.
彼女が監督たちから本当に不当に扱われているならば、憤るのも当然だけれど、実は専属コーチ付きの非常に恵まれた環境で、文字通り夢に向かって走っているのです。
よくこんなキャラクターを主人公に据えたものだ、と思ったら作者も読者から受け入れられない可能性を危惧していたようです。

単純で嘘もあまりつかないけれど、被害妄想も強いし、嫉妬深い。読者に受け入れてもらえないのではと最初は心配したほどでした
http://hon.bunshun.jp/articles/-/3954

もちろん、妊娠は不祥事というわけでもないのに、嫌がらせされたり、身内にも被害が及ぶことは良くないと思います。
しかし、峰子が悪役(ヒール)にされた自分に酔っているような面もあり、読み進めるほどに同情が薄れました。こういう印象もなかなか珍しいものですが……。

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