小路幸也著「話虫干」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
図書館職員・糸井薫は、小説を作り変えてしまう「話虫」を退治して話の筋を戻すため、小説「こころ」の世界に「先生」圖中と「K」桑島の友人として潜り込んだ。しかし日々を共に過ごすうち、糸井は圖中と桑島に友情を感じ、死なせたくないと願う。一計を案じた糸井は、二人を「こころ」の舞台を離れた神戸に連れて行った上で「小説の中の架空の人物」と明かし、「先生とK」ではない存在にしてしまう。

神の視点でありながら、一人の登場人物として東奔西走する糸井と、登場人物側でありつつもどこか神の視点を持つ圖中の語りで進んでいく小説。
明治風に古い文体で書かれていますが、当然現代人の作なので、実際の明治文学作品のように読み難い点はなくライトな作品です。もともと小路先生の文体は読みやすいという点もあって、一気に読めます。

思い付いたものをどんどん取り入れているとしか思えない話虫によって、Kの妹、夏目漱石、ラフカディオ・ハーンにエリーズ(舞姫)、ホームズ(シャーロック・ホームズ)まで登場して、どんどん「こころ」の展開から外れていく辺りは、どうなるのかと期待させられました。
それだけに、とっ散らかった展開がそのまま終わってしまった感があり、ちょっと惜しいです。
糸井たちがどうして夏目先生たちを退場させることができたのか、話虫がそれ以上話に手を入れなかったのは何故かという肝心の部分が曖昧で、釈然としませんでした。

オチに関しては「こころ」をもとに話虫が作った二次創作を、糸井が更に三次創作した、と思ったのですが、そういう認識で良かったのかしら。

救いのない「こころ」という作品を正しい筋に軌道修正させる以上、やはり救いは与えられないけれど、圖中と桑島は先生とKの路を辿ること無く済んだのは良かったです。

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