森沢明夫著「青森ドロップキッカーズ」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
苛められっ子の中学生の宏海は、体験教室で知った「カーリング精神」への感動から、カーリングを始める。先生に貰ったブラシを折られたことで宏海は初めて苛めに反抗し、幼馴染の雄大との友情を取り戻す。カーリング部のある高校に入学した二人は、大会の決勝戦まで進むも、ストーンへの接触(反則)を申告して気持ちよく負けることで、カーリング精神を身に付けた「格好いい大人」に一歩近付いた。

あらすじにまとめた「少年の挫折と再生」を描く宏海の物語と、「スポーツ選手の挫折と再生」を描く柚香の物語の2軸で、1本の物語が紡がれています。
スポーツ青春小説ではあるのですが、柚香たち大人の視点が入ることで、地元への普及活動、スポンサーの意向に左右される選手の在り方など、楽しいだけでは済まされない世界も盛り込まれ、多面的に競技が見えました。とは言え、やはり根本は清々しいところが良かったです。
途中宏海と柚香たちは男女二人ずつのチームを組むけれど、年齢・実力差が大きいこともあって、恋愛ではなく師弟関係で結ばれているところも爽やかでした。
強いて難を言えば、序盤のいじめ描写は気が滅入りましたが、再生のお話としては苦しみも書かないといけないから、必要な要素だったと思います。

本書を読んで初めて「カーリング精神」というものを知りました。要は「スポーツマンシップ」を明文化したものという感じだけれど、本書では非常に短くまとめた訳文を採用しています。

カーラーは、不当に勝つなら、むしろ負けを選ぶ。
カーラーは、ルール違反をしたとき、自ら申告する。
カーラーは、思いやりを持ち、常に高潔である。

原文やカーリング協会の日本語訳がぐっと簡潔にされていて、宏海と一緒に、これは格好いい!と思えました。

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