池田晶子著「帰ってきたソクラテス」

現代(1992年〜1994年連載当時)に蘇ったソクラテスとの対話型短編20編。
哲学といっても、本書は哲学用語を使わず、話し言葉でまとめていますし、社会的(或いはワイドショー的と言うべき)話題を取り上げているため取っつきやすいです。
登場人物の幅は広く、プラトンや釈迦(ブッダ)はともかく、ソクラテスと関係のない「罪と罰」のラスコーリニコフが登場したのは、ちょっと意外な人選で驚きました。

私は、多少理屈っぽいところがあるタイプだと言うこともあって、基本的には楽しく読めました。
個人的には「長生きしたけりゃ恥を知れ」での、老人福祉係とソクラテスの問答がとても刺さりました。この件は福祉問題に拘らずとも、「肉体が生きているということだけでは何の価値もない」という考えで、自分を高め続ける方が良いという思想に転換するのも大事でないでしょうか。
逆に、サラリーマンとその妻の「不平不満は誰に吐く」や、表現の自由に関する「差別語死すとも、自由は死せず」は、議論自体は面白かったけれど、反論しようがない話で封じ込められてしまった感がありました。
結局、どんな理屈であれ自分が納得いく主張なら「その通りだ」と思うし、逆に納得できない主張は「詭弁だ」と感じてしまうのですが、この辺が哲学的思考の欠如でしょうか。

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