- 分類読書感想
三秋縋著「三日間の幸福」
ウェブ小説「寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。」の文庫版。
ウェブ版のタイトルの方が導入設定は分かりやすいけれど、最後まで読んだ時に相応しいタイトルは文庫版の方なので、いいネーミングだと思いました。
非常に面白かったです。
ストーリーとしては、「自分は特別な人間だ」という小学生時代の万能感を捨てきれないまま、「何かいいことが起きる」と思いつつ惰性で生きている主人公クスノキが、人生の終わりが見えたことで、不幸な自分を哀れむことを辞めて真摯に生きるという展開。
クスノキは駄目で嫌味な奴ですが、私も含め本作の読者層なら、誰しも身につまされる要素があるのでないでしょうか。だから、クスノキの気持ちに寄り添えて読めたように思います。終盤、優しい目標のため一生懸命になれたクスノキはヒーローのように格好良く、眩しいくらいですけれどね。
後書きを読むと、作者は死の直前に世界の優しさに気付く残酷な美しさを描いたようですが、私はむしろ、それこそ優しさだと受け取りました。
同時に、非常に恐ろしいけれど、自分も一度寿命価格を査定されることで、打ちのめされて、馬鹿を治すべきなんじゃないか、と思わされました。
小説の作りとしては、読み進める内に各々のエピソードがパズルのピースのようにハマっていく無駄のない構成で、組み上げられたプロットの巧さに唸りました。こんな小説が一本書けたら、私は満足してしまうかもしれません。