シンフォニア中心サイトなのに更新が止まっているので、4年前くらいに取り掛かって放置していたSSに手を入れてみました。
【楽園】
目指していた世界は、実のところそんなに大層なものでない。
無辜の民が不当な暴力や餓えで死ぬ事のない世界――ただ、それだけ。それだけの事が守られる世界で良かった。それが何より難しい時代だった。
やがて目指す形に、差別のない、と言う言葉が加わる事になった所以は、今更語る迄もない。
そうして永く夢見た、理想の世界。それが今、クラトスの目の前にあった――思い描いていた姿とは余りに乖離した形で。
天の都ヴェントヘイム。
この美しい世界に暴力はない。餓えて死ぬ子供も狭間の者への差別も存在はしない。
けれど代わりに、意志を持たぬ無機の天使は、その暮らしの中に喜びも、怒りも、哀しみも、愛も生み出しはしなかった。
これを楽園と呼ぶのか。
堕ちた勇者たちが作り上げた虚構の世界を。
どれほど優しくない地上でも、歪んだ楽園ほど悪くはなかったと言うのに。
これ、実はSさんに「楽園と言うテーマで」とリクエストを頂いていたものなのですが、なんせ昔のことなので、ご本人が覚えていらっしゃるかは不明です。