ロマサガRSリアム編ストーリー軸より。
2022年8月2日の日誌SSで触れた、エミリアとグスタフのお話。あるいは異文化交流。

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 元スーパーモデル・エミリアが店番を務めるショップには、毎週水曜日の午後、決まって砂糖を買いに来る男がいる。
 エミリアと同じく「異界の戦士」と呼ばれる一人で、名はグスタフ。ーーもし名前を知らなくても、髪の毛が角のようになっている彼、と言えば誰にでも通じる、変わったセンスの持ち主だ。しかしモデル仕事をしていれば、奇抜なファッションの着こなしを求められることも多かったから、エミリアは他の者が言うほどその風貌を奇異に感じていなかった。
 とにかく、その彼である。
 ショップの常連にはエミリア目当ての客も多く、毎週決まった日に訪れるという行動は、いかにも店員に印象付ける行為だったから、最初はその類かと思ったのだが、買うものが砂糖ではいささか失敗している。
 試しに新入荷の焼き菓子を薦めたところ、砂糖と一緒に買ってくれたので、実際はただの甘党で、毎週クッキーを作っているだとか、砂糖を定期消費する習慣があるのだろうと納得するに至った。ちなみに、クッキーしか想定できなかったのは、エミリアの料理の腕前に起因する。
 そしてその実験以来、水曜になると菓子を仕入れ、おすすめの札と共に店頭に置くのが、エミリアの習慣になった。
 食事制限から解放されて以来、エミリアは自分が結構な甘党だったことに気付いた。だが、甘いものならなんでも良いわけでない。モデルとして流行の最先端を走っていた自負があるものだから、目新しく、見た目にも華やかな菓子の方がより好きだ。定番菓子が悪いとは言わないが、せっかくならこの世界でもあれこれ食べてみたい。
 しかし婚約者のレンも、友人のライザとアニーも、甘いものを好んで食べる方でなかった。もちろんエミリアが頼めば付き合ってくれるけれど、どうせなら酒のつまみがよかったと書いている顔を見ながらでは、せっかくの楽しみが半減だ。かと言って、自分一人の分だけ仕入れてもらうのは、店番の特権だとしても利益が上がらず少々気が引けたし、賞味期限の短い菓子を、売れるかわからないのに複数仕入れて無駄にするのはもっと不味い。
 その点、水曜日ならば買い手のアテがあるので安心というわけだ。
 店を訪れたグスタフが、おすすめの札を見た後、エミリアに物問いたげな視線を向ける。それに頷いてみせると、彼が2つ掴んで買って行くのがいつものことだった。ーーだったのである。
 その日、グスタフはおすすめの札に目を落とすと、そのまま動きを止めてしまった。
「その……」
 余程言い出しにくいのか、その先がなかなか出てこない。もしや甘党と思わせたのも作戦のうちで、警戒心を解いたところで告白してくるパターンだろうか、とエミリアが身構えた頃、ようやくグスタフは口を開いた。
「なぜ、いつも菓子を薦めてくれるのだろうか」
 甘党を隠していたつもりなのだろうか、と首を傾げたエミリアを見て、説明が足りないことに気付いたのか、グスタフが言葉を続けた。だがーー
「私は、甘いものが得意でないので、仲間に渡していたのだが」
「えっ!?」
 思わず大きな声を上げてしまったが、エミリアは即座に微笑んで取り繕うと、先を促した。
「ただ、先日その一人……プルミエールから、ジニーに甘いものを食べさせるなと怒られてしまって」
「あー、ジニーが虫歯になったって、昨日聞いたわよ」
 間接的に自分が関わっていたとは知らなかった。
 ちなみにジニーには、エミリアも愛用している電動歯ブラシを薦めたのだが、金属はアニマを阻害するとかなんとかで断られていた。
 つまり、菓子の行き先がなくなって購入を躊躇していたのかと理解できて、エミリアはため息をついた。
「私が勘違いしていただけだから、無理に買わなくて良いのよ」
 残念ではあるが、当人が食べないものを買わせるのは忍びない。今回はエミリアが買い取って、久々に仲間内で食べて貰えば良いことだ。
 ほっとした顔で、グスタフは菓子抜きの会計を頼んだ。
「……でも、砂糖は買うのね?」
 いつも通り、砂糖が一袋。そう、元はといえば、これが勘違いの発端だったのだ。
 エミリアが遂に漏らした疑問を聞いて、今度はグスタフの方が、なぜいつも菓子を勧められていたのか理解したらしい。ああと頷いて、屈託なく答えた。
「これは髪の毛を固めるのに使っている」
「ーーえっ!!?」
 今度の声は、ほとんど悲鳴になっていた。
「ワックスとか、ヘアスプレーって、もしかしてサンダイルにないの!?」
 機械がないという話は耳に挟んでいたが、まさか文明レベルがそこまで違うとは、予想だにしていなかった。しかし思い返してみれば、女性たちが長い髪を編み込むお洒落をする程度で、男性はみな自然なヘアスタイルをしていた。そういうことだったのか。
 エミリアは、しばらく無言でカウンターの上の砂糖を見据えたが、どうしても見逃せない感情が自身の内にあることを認めないわけにいかなかった。それは、怒りである。
 故にエミリアは、砂糖の袋を退けてグスタフに告げた。
「お姉さんがワックスってものを教えてあげるから、この後ウチに来なさい」

 その日、ショップの看板娘が青年をお持ち帰りしたと常連が騒ぎ、それを聞きつけた婚約者は任務を放り出して帰宅したのだがーー目が据わったエミリアと、超スパルタヘアメイク講座を受けて悟りを開こうとしているグスタフを見て、そっと扉を閉め、任務に戻ったのだった。


グスタフの髪の毛は砂糖水でかためている、という話は「パーフェクトワークス」で小林先生が書かれていたことらしく、河津氏の公式設定かどうかは実は謎ですが、プレイヤー間で広く認識されているし、準公式と言って良いんじゃないかと思っています。
※「パーフェクトワークス」は未所持なので、自分では未確認です。復刻して欲しい本第一位ですね。

本当は、後半をメインに色々書こうかなと思っていました。
元々砂糖水なんて使わずにアニマでなんとかできないのか?という疑問がありました。ただ、形をキープする(固める)となると、デルタ・ペトラで石化するくらいしかないのかもしれない。髪の毛を石化するのでは、斬新にも程があるし、ヘタをすると全身を固めてしまいかねない。ーーと、いった術に頼れない理由を語ることを考えていたのです。
結局、前振りが無茶苦茶長くなったので、その辺の蘊蓄は切ったのですが、それで正解だった気もします。

エミリアはいい女だけど、思い込みが激しいタイプだと思うので、こういう感じになりました。
アニーは甘いものが好きそうな気もしたけれど、素直に認められないお年頃ということでご了承ください。

これはSSと関係のない余談ですが、佐賀西部編ガチャも天井しました。しかも、まさかのノーピックアップ天井です。ああ、ポルカとリズも欲しかったのに。そして、ジュエルは再び消し飛びました。

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