森山未来主演、カフカの「変身」13:30回。
初めてのル・テアトル銀座。
アクセスが良く、とてもお洒落で綺麗、椅子は折り畳んだ状態で荷物が置き易く、ロビーにアンケート用紙への書き込みが出来る机がある等の点は良い小劇場だなと思いました。ただ、動線はちょっと難。特にお手洗い通路の狭さと数の少なさは、吃驚しました。
かなり前方の上手で観劇。前方客席は傾斜が浅く、しかもあまり動かない芝居なので下手の足元付近はちょっと見切れてしまいましたが、オペラなしで表情まで見る事ができました。
演出は鬼才スティーブン・ バーコフ。この公演、日本では宮本亜門が1992年に主演しています。写真を見る限りでは、今回とまったく同じ演出だった模様です。
まず、出演者は、全員白塗りメイク。
見た目がこれなので、森山未来のライトなファンは脱落するのでは?と考えるのは、余計なお世話でしょうが……演出とは言え、思い切った舞台です。
舞台は鉄パイプで組んだシンプルなセットがあるだけ。全編マイムで、一度だけザムザを追い払う為に棒が出てくる以外の小道具はなし。
舞台は家(あるいはザムザの部屋)さえあれば事足りるので、家のセットを組んでも良いように思ってしまいますが、この世界に役者の肉体以外は何も要らない、あってはいけなかったのだろうとも思います。イメージの固着をカフカが拒否していたように、この舞台もすべてを観客に委ねているのでしょう。
虫に変化したグレゴール・ザムザ@森山未来の動きには、ただ感嘆するばかりでした。指、腕、足といった体のパーツの動きから、床を這い回り、鉄パイプを凄まじい姿勢で登り、落ちる一連の動作。身体能力の一言で片付けて良いのだろうかと思う凄まじさです。
それなのに、舞台では、虫になったからと言って衣装を変えるわけでもなく、虫になったと言う明確な台詞もない為、「グレゴール・ザムザは本当に虫になっていたのか?」と言う不思議な感覚になりました。
また、人間としての時は、どこかロボットのような固い動きで、これはこれで変な感じもさせて、何が正常で何が異常なのか、悩ましい世界観でした。
ザムザが死んだ後、異常な姿勢を保ったまま瞬きもせず、“死骸”として転がっている状態は、「R2C2」でも死んだ後微動だにしなかったことを思い出しました。
ザムザの両親、父親@永島敏行と母親@久世星佳は、動作は仰々しく変なのですが、心情演技はリアルな動きで、何処にでもいそうな、普通の人なんだ、と感じました。特に母親は、ちょっと押し付けがましくウザい感じもしつつ、でも息子を愛する心は確実にあり、結構美味しい役。入り込み易い視点でした。
ザムザの妹グレタ@穂のかは、膨大な台詞を明瞭にこなし、初舞台とは思えない落ち着いた演技でした。ただ、冒頭の兄を敬愛している姿勢や、変身後に彼女自身が自立していくに連れ兄を疎ましくしていく心情の変化が、少し弱かったかなと思います。私には、彼女の感情がどこでどう変わったのか、良く分かりませんでした。グレタは準主役と言うべき役所だと思うので、台詞をこなすだけじゃなく、変化を見せて欲しかったです。まだ2日目なので、これから深くなっていくのかな。後半日程で見てみたかったかも知れません。
あ、あとバイオリンは未経験かな? 別に上手に弾く必要はないと思うけれど、なんとなく違和感がありました。
主任@福井貴一と、下宿人@丸尾丸一郎は、どちらも出番が短く被らないので、同一人物が演じるのかと思っていましたが、わざわざの別キャスト。主任は凄く嫌な男ですが、ちょっと格好良かった。下宿人は、まさかの笑いをもたらしてくれました。
原作は未読ですが、舞台の方が原作よりも救いがあり、どこか爽やかな読了感があるのでは、と思いました。