舞台「カエサル」12:00回観劇。
http://play-caesar.jp/

塩野七生のベストセラー「ローマ人の物語」から、カエサルの壮年期以降を描いたストレートプレイ。
一応、麻生は原作既読。と言っても発売時に一度読んでいるだけなので、細部はあやふやです。シーンによって時間軸が前後に飛ぶのと、役名が難しいので、未読だとちょっと大変だったかも知れませんね。反面、古代ローマ史好きには堪らない内容でした。
長いお話のどこを見せるかと言う取捨選択が練られていて、ガリア戦記のシーンの「何故書くのか」と言う話や、1幕ではあえてルビコン渡河のシーンを見せず大回廊で報を聞く側を描いてる事とか、エピソード単位で思い返すと良いシーンが連続していました。パッチワーク感があるのは、歴史物では仕方のないことかな。
個人的には、キャラの扱いで少し気になるところがありました。その辺は、キャスト評で個別に語りたいと思います。
ちなみに、本日の客席で幸四郎の奥方、藤間さんを見掛けました。歌舞伎だとご贔屓の客への挨拶などがあるけれど、外部劇場の時も毎回顔を出してらっしゃるのかな。

キャストが総勢44人。プロデュースシステムの舞台にしては大人数で、迫力がありました。
日生劇場はかなり平たい劇場のため、集団で出て来るとエネルギーが直に飛んできますね。カエサルに熱狂する市民の熱を感じました。

カエサル@松本幸四郎(九代目)は、軽妙にして重厚。カエサルの茶目っ気、野心、脆さ、狡猾さ、色々なものが含まれていて、役と言うよりその人生を観ているようでした。
台詞回しの端々で「歌舞伎役者だな」と感じました。ここぞと言うシーンで巻き舌になる「ローマ」に、ちょっと腹筋の危機を感じたのは私だけなのかな。
当時は演説の巧さが政治家の生命線であるため、カエサルは凄く多弁ですよね。登場直後からもの凄い長台詞でした。個人的には、寡黙で慕われる男の方が断然格好良いと感じますし、芝居で全部喋られると、受け取るこちらも疲れてしまうので、もう少し沈黙による芝居も欲しかった……と思うのは贅沢でしょうか。

そのカエサルに対峙するブルータス@小澤征悦は、実質的な主人公でした。
宝塚月組で「ジュリアス・シーザー」を下敷きにした「暁のローマ」が演じられた時も、象徴としての主役・カエサルと、物語の主人公・ブルータスという感じでしたよね。役割分担として、使い易いキャラなんでしょう。
実は、1幕では演技が下手だと思ったのですが、2幕でシナリオの焦点が定まってからはとても良かったです。カエサルを殺す決意、殺した後の虚脱、そして怖れは迫真の演技でした。大柄で舞台映えもするので、後は声が良ければ素敵だなと感じました。

オクタヴィアヌス@小西遼生。
知ってる顔だと思っていたら、元・小西大樹(テニスの王子さまミュージカルの初代伊武)で驚きました。経歴を確認したら「レミゼラブル」のマリウスも演っているし、随分俳優として成長していたんですね。
大変な長身と小顔で、とにかく美しかったです。
美貌キャラと言えば、クレオパトラ@小島聖もそうですね。
ただし、こちらはエジプトの女王にしては小粒。脚本上の描き込みも少なかったけれど、もう少しオーラが欲しかったところです。

ポンペイウス@瑳川哲朗とクラッスス@勝部演之は、流石の存在感。原作では余り印象に残っていなかったこの二人が、凄く好きになりました。
逆に、アリス@水野美紀は原作にない役。
ブルータスに想いを寄せるセルヴィーリア付き奴隷と言う立場の狂言回し。脚本家が、この手の現代的な視点を持った役を投入したくなる気持ちは良く分かりますが、私は無知を武器に騒ぐキャラは好みでないので、役の必然性についてはやや疑問でした。
水野美紀自身は、身体の動き、演技力、すべて素晴らしい出来だったので、余計にキャラに苛々させられることが勿体なく感じました。

実は密かに好きだと感じるキケロ@渡辺いっけい。政治家としての欠点は否定出来ませんが、その人間的な弱さは、歴史上の、つまり自分と関わらない人物としては愛すべきものだと思っています。
そんなわけですので、キケロの右往左往っぷりや彼の信ずる共和制ローマがちゃんと描かれていた事に満足しましたし、キャストも嵌まっていました。ただ、日常の時は情けなさ全開で良いけれど、市民諸君と呼び掛ける時などは台詞に「重さ」が欲しかったです。

最後に、セルヴィーリア@高橋惠子。カエサルの愛人に相応しい賢く洒脱な美女でした。元々美味しい役だけれど、演じ手の巧さもあったと思います。
それだけに、暗殺後のブルータスに呪詛を吐きながら蹴り付けるシーンは違和感でした。「寛容」と言う言葉の意味を教えられたアリスが「奥様の事だ」と言うシーンが、台無しになった感じです。

細かい所では、ラビエヌス@檀臣幸が端正で、とても格好よかったです。身体の見た目も叩き上げの武人と言う感じがしましたし、台詞の声も良かった。と思ったら、吹替声優もされているんですね。納得でした。

終盤にブルータスの台詞でカシウスが出て来た時に、思わずにやりとした私は、やはり大空祐飛ファンだなぁと思いました。
今更だけれど「暁のローマ」と見比べて、キャラの解釈とか考えてみたいなぁと感じました。あちらは、この重厚で複雑な歴史舞台に対して、娯楽重視の軽い作風なので、そんなことを思うのは失礼な気もするのですけれどね。

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