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森岡浩之著「星界の紋章」全三巻

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
地上人でありながら宇宙帝国の貴族になった少年ジントは、貴族の義務である兵役に就くため、首都を目指した。しかし、搭乗した戦艦は敵対国家に襲撃されてしまう。ジントは同乗していた訓練兵・皇帝の孫娘ラフィールと共に脱出し、宇宙空間の戦いには強いが、地上の常識には滅法疎い彼女と助け合いながら、帝国の首都まで帰りつく。

銀河を掌握しようとする帝国を舞台とした、ボーイミーツガールと星界戦争。
強い少女とおっとりしているが骨はある少年という鉄板のペアで、展開も非常にオーソドックスですが、王道の面白さを味わえます。
強いて難を言うならば、ジントは父親との確執がキャラクターとしての主題になりそうだったのに、親子の直接の対話がないまま、父親を退場させてしまったのは勿体ないと思いました。
一読すると、ラフィールのキャラクターが強烈な印象を残しますが、実際は語り手である主人公ジントが、世界と読者を繋ぐ巧い役割を果たしていると思いました。

ちなみに、表紙絵からライトノベルだと思っていたので、文中に挿絵がないのは意外でした。
独自の用語とルビ振りの多用はライトノベルっぽいですが、或いはSF界ではこういう文体が主流だったりするのでしょうか。「マリア様がみてる」の紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)とかを思い出しました。

アルフレッド・ベスター著「虎よ、虎よ!」(早川書房/中田耕治訳)

【あらすじ】
残骸となり漂泊する宇宙船ノーマッドで生き延びたフォイルは、兄弟船ヴォーガが救助信号を無視して去った事に絶望し、復讐を誓う。地球に帰還したフォイルは、復讐相手を見つけ出そうとするが、同時にその頃、ノーマッドにあった特別な積荷を得ようと財閥の主や軍関係者が彼を追っていた――

「モンテ=クリスト伯」を読んだ時に、同作をモチーフにした傑作SFとして紹介された作品。
「ジョウント」と名付けられた瞬間移動能力の発見を描いたプロローグが面白くて、その勢いで最後まで読まされました。
ただ、余りに粗野で無計画なフォイルが抱く復讐の一念に共感できず、荒唐無稽なアメコミと思うことで読み進めていたら、最後にそれまでの展開をすべて投げ出し、主人公の意識が超次元的に揺らぐ終盤は理解が追い付かず、読み解く事を放棄してただ字面を追ってしまいました。
また、タイポグラフィで表現する小説は、効果があるのだろうか?と疑問を感じます。読み難いだけだと私は思うのですが……。

私の好みと懸け離れていたのと、SF版「モンテ=クリスト伯」と思って読んだ為に、低い感想になっていることは認めます。
思想や行動がぶっ飛んでいる登場人物、矢継ぎ早なテンポ、思いも寄らない問答、後の作品に多大な影響を与えたという各種の設定など、見所は多数あります。

ちなみに、表4(裏面)しか目にしないままブックカバーを掛け、読み終わってからカバーを外した時に、記事冒頭の異様で力強い表紙絵を見て驚きました。これを見ると、フォイルの顔を見て怖気を感じる人々の気持ちが頷けます。