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シナリオ中盤のレイブンSS。
問題作かもしれませんので、恐々としつつ、でも思い付いたのでアップ。急ぎで書き上げたため、あまり練ってません。


【毒の矢】

「バカは死ななきゃ、治らないって言うしねぇ」
 いつもと同じ巫山戯た調子の放言に、何喰わぬ顔で毒を混ぜる。
 その言葉は直ぐ少女によって不確実性を指摘され、皆の苦笑いに流されてしまった。刹那の間、背後の空気が揺れたことに気付いた者はいない。
 男は、振り返って己の言葉が及ぼした影響を確認するような愚を冒さなかった。
 既に矢は放たれ、鏃の毒は若者の中に潜り込んだ。射手に残る仕事は、成果を待って主君に捧げるだけである。
 つまるところ、暴政の騎士を舞台から降ろそうと決意した者は、青年が初めでなかった。
 それにしても、自らが不義を働くことと、正義を貫こうとする他者の意志を歪め、堕とすことはどちらがより罪深いことだろう!
 答えは己の中に既に存在していたが、男は今日も目を瞑り、宿の寝台に潜り込んだ。


ラゴウの一件はユーリの意志で行われたけれど、キュモールの時はどうでしょうか?
もちろん、状況を見て、決意し、実行したのはユーリ自身ですけれど、舞台から降ろすと決めた第三者の意思がレイヴンを通じてユーリの背中を推した……可能性も、あるのかも。
事後、カロルからユーリへなされる無邪気な追求を、レイヴンがタイミング良く寝転ぶことで止めたのは、ちょっと罪滅ぼしだったりして。

シンフォニア中心サイトなのに更新が止まっているので、4年前くらいに取り掛かって放置していたSSに手を入れてみました。


【楽園】
 目指していた世界は、実のところそんなに大層なものでない。
 無辜の民が不当な暴力や餓えで死ぬ事のない世界――ただ、それだけ。それだけの事が守られる世界で良かった。それが何より難しい時代だった。
 やがて目指す形に、差別のない、と言う言葉が加わる事になった所以は、今更語る迄もない。
 そうして永く夢見た、理想の世界。それが今、クラトスの目の前にあった――思い描いていた姿とは余りに乖離した形で。
 天の都ヴェントヘイム。
 この美しい世界に暴力はない。餓えて死ぬ子供も狭間の者への差別も存在はしない。
 けれど代わりに、意志を持たぬ無機の天使は、その暮らしの中に喜びも、怒りも、哀しみも、愛も生み出しはしなかった。
 これを楽園と呼ぶのか。
 堕ちた勇者たちが作り上げた虚構の世界を。

 どれほど優しくない地上でも、歪んだ楽園ほど悪くはなかったと言うのに。


これ、実はSさんに「楽園と言うテーマで」とリクエストを頂いていたものなのですが、なんせ昔のことなので、ご本人が覚えていらっしゃるかは不明です。

 愛する気高き犬は、しかし素っ気ない欠伸を残して立ち去ってしまった。
 肩を落とした彼女に、飼い主である青年が慰めの声を掛ける。
「残念だったな、エステル」
 但し、彼がそう言う口の端からは噛み殺した笑いが漏れているので、本当は同情していないことくらい、鈍いエステルでも分かる。
 そんなに自分の姿は滑稽なのだろうか。
「猫は懐いたのにな」
 ユーリの言うことは、彼女が理解できる範囲を超えている事がある。
 覚えのない話に、エステルは首を傾げた。
「猫がいたんです?」
「ああ、直ぐに火を吹く茶色い凶暴な奴が一匹」
 聞き覚えのある特徴は、明らかに仲間の一人を示していた。確かに、あの少女はどこか猫に似た雰囲気があるかもしれない。
 二人の視線を受けた天才魔導少女は、くるりと丸い円を描いて振り返ると一喝した。
「あたしと犬っころを一緒にするな!」

 ──同じことを唸った声もあったのだが、これは誰にも聞き取られぬまま終わった。


何も考えずに書いたら、またリタオチになりました。
そのため、少しは捻ろうと何パターンか書き直してみましたが、結局シンプルな最初のパターンに戻りました。彼女は反応が子供だから書きやすいですね。

今日もヴェスペリアSS書き殴りですがラピードはお休み。ED後です。
題名は「Amor et lacrima oculis oritur, in pectus cadit.」と入れたら長過ぎたので邦題。


「良い機会ですから、伝えておきたい大事な話があるんです」
 その言葉に、エステルは気軽な気持ちで頷いた。
 若い皇帝が副帝を呼び寄せるのでなく訪問し、何事か相談をするのはさほど珍しいことでない。騎士団長を伴っているのは珍しいが、皇帝の一人歩きを遂に見咎めての同行だろう。
 気遣ったのはもう一人の方だった。
「俺、席外すか?」
 問う形をとってはいたが、ユーリは既に腰を上げていた。先程あれほどエステルが苦労して座らせたばかりだと言うのに。
「構いません。いえ、一緒に聞いてください」
 彼女が抗議するより早く、ヨーデルは強く首を振り、重ねて右手で彼を制した。
「じゃあ手短に済ませてくれ」
「わかりました」
 皇帝への態度とは思えぬ物言いに、青年をよく知る彼等は微かに笑い、そのことに憤慨した振りでユーリは乱暴に腰を下ろした。勢いのついた青年の体重を受けて、些か派手に空気が抜ける音がする。
 だから、ヨーデルにもう一度名を呼ばれた時、彼女が考えていたことと言えば、お気に入りのクッションが破れてしまうのではないかと言うことだった。
 慌ててヨーデルに向き直れば、いつの間にか彼女よりも高い位置から注がれるようになった優しい瞳が微笑んだ。
「エステリーゼ、僕と結婚してくれませんか」


こんな未来が待っている可能性もあると思うのです。
しかし、書いてみたら乙女ゲーム的だなと思いました。
続きのお相手は、ユーリでもフレンでも、真っ直ぐにヨーデルでもお好きなようにご想像ください。

第二部終盤注意報。今回も途中までです。


 沈黙する森の中心で、ラピードは静かに立ち上がった。
 傍らで伏せた主人の眠りは深い。珍しいことだったが、理由は明らかだ。
 ラピードは北東から漂う花の匂いへ顔を向けた。
 最近主人が率いるようになった群れは、女子供ばかりの未熟な一団で、時には主人の足枷でもあった。己で決めた道を背負う覚悟も、まだ不安定だ。彼と主人が密かに街を出たことも気付いてはいないだろう。
 だが。
 彼等が主人を必要としているように、主人にも、彼等が必要なのだ。
 今、欠けた星のひとつを取り戻すためにも。
 ──決意し、ラピードは街の方向へ数歩戻り、けれどそこで足を止めた。


初ラピード心境。ちょっと生意気です(笑)。
でもこのメンバー構成だったら自分が主人の片腕で、羊の群れを率いてるつもりなんじゃないかしら。SH2のブランカは自分が率いてるつもりだった可能性があると思ってますので、その点はラピードの方が少し謙虚ですね