宝塚宙組「モンテ・クリスト伯/Amour de 99!!」11:00回を観劇。
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五十音順キャラクター・ショートショート【そ】
→ルールは2012年12月17日記事参照
その子供は、泣きながら後を付いてきた。
少し進んだところで立ち止まり、子供を待つ。追い付いてきたら、また先に立って歩く。こんなことを何度も繰り返していた。
まだ道は半ばだというのに、もう日が暮れる。
だが彼は我慢強く子供を待った。彼の師がそうしたように。
背負ってやれば良いのだろうが、彼にも荷がある。
水の城の王は、不測の事態に備え、各地に貯蔵庫を作らせていた。その一つは、彼が棲む村から半日歩いた岩山の中に隠されている。
水が開放されたといっても、辺境にはまだ行き届いていない。痩せた田畑を蘇らせようにも、日数が足りない。
故に、彼は月に一度村とそこを往復して、水と食料を運んでいる。
つと、子供が転んで、吃逆に収まっていた泣き顔をまた涙が濡らした。
「泣くな」
村への帰り道で拾った、名前も来た場所もわからない子供だ。このご時世、名も付けて貰えないまま親を失う子供は珍しくないが、名を呼べないのは不便である。
「泣くな、美雨」
――自分の口から零れた名前に驚かされた。
彼女が泣いているところなんて見たことがないのに、一度そう呼んでしまうと、他の名前はもう見当たらない。
気づけば子供も驚いて涙を引っ込め、彼を見上げていた。
「美雨?」
「……ああ。美雨――お前の名前だ」
その名で呼ぶと、途端に子供を一人で歩かせるのが不憫になった。
彼女はきっと、両親と手を繋いで歩いた筈だ。
「美雨、おいで」
衝動のまま、座り込んだ子供に手を伸べる。
そして空とその泪の名を持つ二人は、並んで歩き始めた。
蒼空から落ちた泪
……空(舞台「シャングリラ ー水之城ー」)
水門の戦い後の空と、少女美雨の出会い。
タイトルやら泪が云々というのは、作中の歌詞から拾って来ていますので、雰囲気で汲み取ってください。
最終シーンで持っている頭陀袋の中身を想像して、色々冒頭に書き込み過ぎました。
宝塚宙組「銀河英雄伝説@TAKARAZUKA」11:00(阪急交通社貸切)回を観劇。
司会はOG涼花リサ、抽選会のお手伝いは実羚淳でした。
凰稀かなめがパレードで見せた羽根のナイアガラを打ち下ろすお辞儀に、客席が沸いていたのが貸切公演らしくて微笑ましかったです。
11月1日記事の続きで、キャスト評。
ラインハルト@蒼羽りくのキャラクター性は、前回記事の通り。役作りなのか、素なのかは判断し難いところですが、解釈としては面白かったです。
歌は……オープニングから「フレイヤの星」までは手に汗を握りました。しかし丁寧に音を選んで外さないようにしていたので、音痴ではないはず。上達の見込みはあるかもと期待しています。
台詞は男役声が出来ていて元々好きなのですが、時々裏返ってしまったのは、緊張のせい?
さすがに踊りは危なげなく、優雅でした。マントさばきも、指先が物凄く集中しているのが伝わりましたが、その努力の甲斐あって美しかったです。
ヒルダ@花乃まりあは、大変聡明で知的に見える、好みの役作りでした。本役がカラリとした明るいヒルダなのに対して、適度な湿り気があり、国を憂うお嬢さんという雰囲気。歌声は透明感があって心地好く、もう少しボイストレーニングを積んで声の細さを克服して貰えれば言うことなしです。
欲を言えば、実年齢は若いのに老けて観えるので、化粧に改善の余地ありかなと思いました。
キルヒアイス@桜木みなとは「クラシコ・イタリアーノ」の子供サルヴァトーレ役が良かったので期待していましたが、キルヒアイスとしては少し期待と異なっていました。恐らく、持ち味が弟気質なんですね。ラインハルトが子供なので、キルヒアイスはもっと「お兄さん」の要素が大きくても良かったと思います。
それと、彼を観ていると時々、春風弥里を思い出しました。芸風が似ている、のかしら?
ヤン@凛城きらは、ヤンには見えないのですが、演技はハートフルで大変良かったです。歌も、他の主要男役に比べると安心して聞けました。
それにしても、本役と同じような役作りなのに、印象の違いはどこから生じるのか不思議です。
オーベルシュタイン@愛月ひかるは、本役とは少し髪型が違い、「記者と皇帝」のレッドマン役を彷彿とさせられました。偶にオペラグラスで覗くと、焦点の合わない眼をしていて怖かったです。宝塚版脚本ならではの役作りですね。
男装のヒルダと遭遇した時の驚き方が下手過ぎて、思わず苦笑い。でもその後ヒルダを凝視して、二度も退出を言い渡されるアドリブで、ちゃんと笑いを取っていました。
割愛シーンが多い為に、解説役としての重要度が上がっているフェザーンの二人組。
ドミニク@すみれ乃麗が、台詞を覚え切れていないのかと疑うほど何度も噛んだり間があって嫌に緊張させられましたが、台詞回しは良かったです。「強い女」のイメージがある本役よりも、エロティックな雰囲気があって好きでした。
ルビンスキー@美月悠も声は掠れていたけれど、台詞は明瞭だし、歌も堂々としていて見直しました。脇を演じる芝居巧者が減ったので、これからもっと活用されるかも知れませんね。
アンスバッハ@和希そらは、宝塚での好評価で期待値を高め過ぎていたようです。大して見せ場がある訳でもなく、有能に振る舞っても脚本上はすべて裏目に出ている時点で、難しい役なんだと思います。
和希は小柄なこともあり、星吹彩翔と芸風が似ているような気がしました。
提督たちは見せ場が大幅に削られているので、あまり印象に残らず。やはり本役のビジュアルの完成度は凄いなぁと思った中、ワーレン@七生眞希は好みの美形でした。過去の観劇記録を調べたら、「誰がために鐘は鳴る」で蒼羽りくに似ていると思って注目対象にした子でしたね。本公演で目立つ位置に来ないので忘れていました。
皇帝フリードリヒ4世@星吹彩翔は、老け役は初めて? 童顔に髭という点でかなりハンデを負っていて、演技している感を感じてしまいました。上手い人なので、技術的には文句ないのですが、正直ヤン役で観てみたかったとも思います。
本役が上手過ぎて、新人公演では見劣りしそうなところをしっかり締めたのがトリューニヒト@留依蒔世とジェシカ@彩花まりの同盟政治家組。特に、慰霊祭のトリューニヒトは、本役である星吹が群衆役で目の前にいて歌い難そう、と思いましたが、そんな心配は不要でした。
本役以上に怪演かも、と思ったのはベーネミュンデ@瀬音リサ。皇帝が危篤に陥った後の狂気の表現から眼が離せませんでした。
注目のアンネローゼ@伶美うららは、役が合っていて大人っぽい持ち味が生きていました。本役より白羽ゆりが演じたアンネローゼを思い出しました。蒼羽と輪郭が似ているので、姉弟として説得力もありました。
ユリアン@秋音光は、こまっしゃくれている印象。そういう面もあるキャラクターですが、もっと利発な雰囲気が欲しかったです。
宝塚宙組新人公演「銀河英雄伝説@TAKARAZUKA」を観劇。
新人公演は、入団7年目までの下級生たちで本公演の演目を演じる、若手育成の場です。宝塚&東京での各1ヶ月の公演期間中、1回ずつ行われます。麻生は今回、主演の蒼羽りくを応援するため、初めて参加しました。
全体評
宝塚大劇場で行われた新人公演の評を聞いて、出来を心配していましたが、概ね本役を踏襲した演技で、みんな上手でした。壊滅的に下手な役者はいなかったですね。
ただ、欲を言えばもっと新人公演ならではの熱気が欲しかったのに、小粒に手堅く纏まっていた印象です。
指揮者は本公演と同じ塩田明弘氏でした。よく新人公演の音楽については「オーケストラも新人公演」と揶揄されますが、今回はバイオリンの音が金属質だったこと以外、本公演と殆ど遜色なかったと感じました。
ソロは出来不出来が大きかったですが、宙組コーラスの迫力は新人公演でも健在で、1幕ラストの大合唱の厚みには耳が痺れました。
新人公演の変更点
新人公演は、純粋に出演者総数が減ることと、上演時間の制限により、シーン変更が行われます。
今回は、冒頭の歴史解説、艦隊戦・陸上戦のすべて、子供時代の回想、オペラ座の回想をカット。カットした為に前後が繋がらなくなる部分は、台詞を増やして補っていました。
その結果、キルヒアイスがアンネローゼに帝位簒奪の意志を伝えるという酷い脚本になっていましたが、それ以外は巧く端折られていて、エピソード満載で話が散漫な本公演より分かり易く感じました。
舞台演出自体は、元々本公演の演出が素晴らしいので、それを踏襲。実は、前回は前方端席過ぎて全体像が観えなかったので、新人公演で複雑に計算された演出の妙を実感しました。
ラインハルトの少年性
本公演観劇の時は、「銀河英雄伝説の舞台(宝塚)化」という気持ちで観ていたのですが、今回は「銀河英雄伝説を原作とした舞台作品」という気持ちで観ることが出来て、色々な発見がありました。
その発見の糸口になったのが、主演・ラインハルト役の蒼羽りくです。
公演を観終わってから、全体を思い返し、蒼羽ラインハルトの本質は「膨れっ面の子供」だな、と思いました。
例えば、甘えの対象であるキルヒアイスに対してちょっと背伸びして優位に立とうとしたり、批判されると他人の言葉を借りて自己弁護するところ。オーベルシュタインやヒルダに理詰めで迫られると、とりあえず反発はするけれど素直に聞いているところ。姉へ我儘を言ったり、死の床の皇帝に応える台詞も、幼稚な面が表に現れた感じです。
原作でも子供っぽい精神の持ち主ですが、政治的才覚があるからそこまで幼く見えなかったんですよね。二十代なら時々このくらい若さを発露するのも当然か、と思えていました。凰稀ラインハルトも松坂桃李ラインハルトも、その印象に則っていました。
でも蒼羽ラインハルトは、十代の子供が大人社会で背伸びしているだけに見えました。行動力があるのは大人に反発しているだけで、あまり深い思慮はなさそう。例えば賊軍と呼称させる下りで、凰稀ラインハルトはその語を選んだ含みがあるように聞こえたけれど、蒼羽ラインハルトは純粋に姉へ危険が迫ったことで怒りを炸裂させていただけ。
本役とは持ち味が違って、これはこれで面白いラインハルトでした。
そういえば、ヒルダのことも、女の子として意識している感じがしました。……机の整理を始めたヒルダを制止するシーンで声が引っくり返ってしまい、リンデンバウムの栞に気付かれないよう本気で焦ってるように見えた効果もありましたが。
ちなみに、ラインハルトが子供な分、皇帝がラインハルトを見守っている度合いがアップしていました。カーテンコールで皇帝の扮装に戻った星吹が、蒼羽の拙い挨拶の間中、優しい表情で時々頷き、温かく見守っていたのは印象的でした。
宝塚版的には、皇帝に「ラインハルトの父」としての役割、即ち保護者であり最初の敵でもある存在として意味を持たせているのかも知れませんね。1幕ラスト崩御シーンの改変が、「父と子だから」と思えばストーリーとして頷けました。
書き切れなかったので、キャスト評は次回に回します。