復刻版DVDで、2001年の宝塚月組公演「血と砂」を観ました。
ブラスコ・イヴァニエス原作の「血と砂」に、主人公ファンの弟プルミタスと言うオリジナルキャラクターを追加したW主演用舞台作品。
一応、発売前に原作を読もうと手に取ったのですが、文体が古過ぎて数ページで挫折しました。映画も未見です。
一幕前半は展開がハイスピード過ぎて吃驚。二幕の遣る瀬無さに考えさせられます。
主人公たちのどちらも、身近な幸福を捨てて破滅に突き進んだと言う印象。当然、話の流れは暗く重いのですが、終盤に兄弟が和解する御陰で、悪い事ばかりの人生じゃなかったよね、と慰められます。しかし、公爵への復讐は果たさせてあげても良かったと思うし、やはり原作がなければハッピーエンドにしてあげたいところです。
全員に役が付いてるんじゃないかと思うくらい多数のキャラクターが登場しますが、夫々役者の魅力が生きていて、どの役も魅力的でした。
W主演の二人(汐美真帆・大空祐飛)は、宛書きであることとオリジナルキャラの分深く書き込まれているので、弟プルミタスがちょっと得してる感じ。暗い憎悪の眼差しがチャームポイントと思いきや、終盤に零す「なぜ、またアレーナに立つの?」と言う台詞が不意打ちで可愛かったなぁ。上級生とW主演な為か、通常の主演作と違いどこか下級生っぽい顔が見えたのも面白かったです。
しかし、フィナーレの男二人デュエットでは、汐美真帆の方が元々ダンサーな分、自分の魅せ方に余裕がありますね。その汐美演じるフアンは、天狗になるわ家庭を顧みないわと、共感し難い格好悪い男なのですが、ドンニャの足元に縋り、泣いて助けを乞うシーンは揺さぶられて涙が出ました。
プルミタスを追うヤクザな刑事グァルディオラ@嘉月絵理は、初めて悪役を観ましたが、脇役とは言えない立派なスターですね。これが「色悪」と評される役柄なんでしょうね。
二役の紫城るいも、男役時代を観るのは初めて。チリーパは少年らしさを生かして好演だと思いましたが、フユエンテスはちょっと役に足りていない気がしました。衣装が身の丈に合ってないせいかな。衣装部の珍しい失敗だと思います。
ガラベエトオ@楠恵華は、フアンへの愛憎が入り交じる難しい芝居に感心。大変美味しい役でしたね。最後にフアンを送り出すシーンの演技は、正直カルメンの慟哭より胸に来るものがありました。
専科から出演の二人は巧く舞台を引き締めていましたが、特にぺスカデロ@磯野千尋は借金取りに追われる場末のマスターに身を堕とした姿が実に良い堕ち方で、納得の演技でした。
プログラムを見返さずにこれだけの役の名前が出て来る辺り、全体的にキャスティングが成功していると思うのですが、その最良手は、ドンニャ@西條三恵でしょう。正直決して美貌と言えないのですが、不思議な肉感があって、虚無的で、何とも言えずゾッとさせられます。二人の亡骸に薔薇を投げて「アディオス…」と言うシーンは鳥肌が立ちました 。
元がVHSビデオだけあって、DVD映像にしてはボケてますが、個人的には精度が良過ぎても夢が見られないと思っているので、あまり気になりませんでした。
ただ、「THE LAST PARTY」の時も同じようなことを言ったと思うのですが、重過ぎて何度も見返すのは辛いですね。等と言いつつ、今度はガラベエトオ視点で観たいかな、なんて考えています。