いまさらな月組公演「バラの国の王子」SS。
男は振り返り、山の彼方を想う。愛しく懐かしい、彼の祖国を。
今でも鮮明に思い出せる、白い王宮、整列した兵士たち、生い茂る森、活気ある街並み……
けれど彼の記憶の国に、薔薇は咲かない。
いまや国中に溢れ、人々と共に在ると言うその花を、彼は知らなかった。
劇後、王様が国に戻ることはないだろうと思います。彼なりのケジメと言うより、誇りが許さないのでは。
でも、祖国を憎むこともないだろう印象があります。いつか追い出された理由を本人なりに理解して、幼かった自分を苦笑いしながら懐かしむのかな、と思います。
薔薇を知らない王様は、薔薇が咲き乱れる祖国を想像できないけれど、実は大人になった彼の家では、名もなき花として薔薇が普通に咲いていたら良いと思います。
時折、彼女は王座に座る愛しい人を見て、彼のことを思い出す。誰も口にしなくなった、先代の王を。
執務中の鋭い眼差し、引き結ばれた唇、優雅なステップ、冠を被る仕草……
愛しい人と彼は、少し似ている。
そう、少しだけ、似ている。
主人公と敵役が血縁だと言う設定が、まったく物語に反映されなかったのが残念でした。
霧矢と龍の顔立ちは似てないですが、貴人を演じるときの硬質な雰囲気は少し似ている気がします。
そんな似たところのある兄は、周囲に「いつか帰ってきたら、温かく迎えてやろう」などと言いながら、弟は帰ってこないと確信していそう。
そしてベルだけが、そんな野獣を知っている。
そんなイメージがあります。