突然思い付いて一発書きしたSS。こういう小話は勢いが大事なので、推敲はしていません。


その立て札は、教室塔の入り口で学生たちを待ち構えていた。

義理チョコ、友チョコの授受を禁ず――

「どういうこと?」
 と思わず呟いたのは、両手に提げた袋にラッピングした小箱を山程入れて登場したベーギュウム教室教室長、アーデリカである。
 ちなみにこの袋は、行きは配布する菓子を、帰りは受け取った菓子を持ち帰るのに必須のアイテムである。
「こういうものを立てて驚かせてくるのは、普段ならフォウル様ですけど……」
 イベント事を好む最高位の騎士が、水を差す指示を出すはずがない。
「こういうことがお嫌いそうなカイ教師じゃない?」
 そう思うのは彼の教師の一面しか知らぬ者である。
 それに、彼なら範囲を限定せず、すべてのチョコを禁止するだろう。
「立て札ってところが、劉教師っぽい気もします!」
 しかし、こうした行事にわざわざ介入するタイプではなかった。
「教師陣より、ああいう人が怪しいと思いますけど」
 と、最初から疑わしい者を見る眼でシェリアが指し示したのはナディルヤードである。
 ド近眼の彼は、わざわざ先頭に行って立て札を確認した挙げ句、一ヵ月後の返礼に悩まされずに済む!と歓声をあげたせいで、女性たちから袋叩きにされているところだった。
 本音を隠さず口にするのは、人付き合いにおいては美徳とばかり言えない。
「犯人探しより、皆が持ってきているチョコレートをどうするかが問題じゃないか?」
 話を少し前進させたのは、ルクティ教室教室長イグゼフォム、通称イクスだった。
 この立て札に従うと、贈り先を失った菓子が大量に少女たちの手に残る可能性がある。
 数瞬の間の後、アーデリカはふと気付いて言った。
「よく考えたら、私は義理クッキーと友マカロンだから問題ないわね」
 ならばと、恋人とその親友用にチョコレートを持参したセララは無邪気な笑みと共に言った。
「じゃ、セララのは両方本命チョコってことで、良いよね!」


では、これから平日夜の菓子作りです……

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