五十音順キャラクター・ショートショート【あ】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 あの日、滅びの預言とともに精霊と魔法が消え去り、私と彼はなにも背負うものがない、ただの人になりました。
 王都を出て、大陸の外れに住まいをもったのは、それから二月ほどのことです。
 亡くした命を身体に刻んだ異形の彼と、人の営みを知らない私を、温かく迎えてくれたこの辺境の村。
 土を耕し糧を得て、自然が許してくれる範囲で慎ましく暮らす。一年の幾日かは白雪に閉じ込められて、あの雪山の行軍を思い出す。――私たちは、そんな日々を手に入れました。

 それにしてもなぜ、彼は新しい住まいとしてこの村を選んだのでしょう。
 彼は、王都のどこに住んでも良いと許されていました。あるいは、縁深い土地の数々がありました。例えば、彼がかつて穏やかに暮らしていた街、今でも時折補修を頼んでいるという時計塔、騎士団が一丸となって守った街。
 大陸全土を巡った日々の中、この村を訪れたこともあったでしょうが、印象に残る出来事があったとは聞いていません。
 私が遂にその疑問を口にした時、彼は少し微笑んだようでした。
「どの街にも、その時一緒に生きていた連中との思い出がある」
 それは、どれも優しく大切な思い出だけれど――と断る彼の困ったような微笑みが、照れ隠しだと気付いたのはこの時でした。
「あんたとは、新しい思い出を作ろうと思ったんだ」

 百年間、私たちはお互いの傍らに立っていました。
 これまで過ごした時間と比べたら、人としての一生はとても短いものです。けれど、限りあるたった一つの命をペンとして、白紙に思い出を作るこれからの三十年を、きっと私は愛するでしょう。

あなたと二人の思い出を
……アリア(ゲーム「ヴィーナス&ブレイブス」)


某Iさんが、主人公カップルがED後、ゲーム中の物語と関係ない僻地マリスベイに隠居したのは不思議だと指摘されていたことをネタにさせて頂きました。
です/ます調の一人称は、恐らく人生初の作品だと思います。
そして、非常にこそばゆかったので、今後作ることもないと思われます。

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