五十音順キャラクター・ショートショート【さ】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 寒い日の曲、暑い日の曲、楽しい時間の曲、仕事の時間の曲――。
 彼は曲を奏で続ける。
 演奏を止めるのは、主人の眠っている間だけだ。物心ついた頃からこうしているものだから、最近は眠りながらでも弾いていられる気がした。まだ、試したことはないけれど。
 主人の生活をその時々に相応しい曲で彩るのが、彼と彼の一族の役目だった。例えば、朝の目覚めには爽やかな四重奏、微睡む時には優しい子守唄、急ぐ道程にはアレグロの行進曲、恋を告げる時にはメロディアスで想いを高める曲が必要だ。
 勿論、あらゆる者の人生が自分の音楽で彩られているわけでない。これは人生の主人公であることを許された人々の特権で、つまり演奏している彼自身の人生に音楽が寄り添うことはない。
 そういうものだ。
 街中は誰かの音楽で溢れていて、それゆえ耳を傾ける者はない。
 そういうものだ。
 どれほど心を込め、あらゆる技巧を凝らしても、数ある楽士の一人が注目されることはない。
 そういうものなのだ。
 すべてを飲み込みながら、彼はただひとつの背景として曲を奏で続けた。

サウンドスケープ 〜音のある光景〜
……サルゴン・レイ(オリジナル小説「天駆ける騎士の奇想曲」)


違う人物で2本ほど書いていたのですが、巧くまとまらなくて、遂にAKCキャラが登場です。
サルゴンの過去話、演奏耐久レースの模様です。

よく、ドラマ等を観ていると、良いタイミングで盛り上がる音楽が入りますよね。あれは、画面に映らないだけで、後ろに付いて回っている楽団が弾いているんですよ(笑)。

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