五十音順キャラクター・ショートショート【し】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 汐留駅を出た二人は、首を竦めて薄いコートの襟に顔を隠した。
「なんだって非番の日まで、埋め立て地に来なきゃならんのか」
 殺風景でつまらないし、冬の海は寒い。
 口の中で不満を呟いていると、半歩前を先導する野明が唇を尖らせたのが見えた。
「どこでも良いって言ったの、遊馬じゃん」
「へいへい」
 当たり籤を理由に奢ると言い出したのも、店を任せたのも彼自身だ。もちろん覚えている。
 投げやりな返事になったのは、真っ当なやりかたでデートに誘えない自分への呆れゆえだった。
「このあいだ進士さんが奥さんと行ったお店、すっごくお洒落で美味しかったって聞いたんだ」
 黙りこんでいると、野明は時折振り返りながら、目的の店を説明し始めた。
 気を使わせてるな、と思ったが、聞き手の気楽さも手放しがたく、遊馬は相槌を打つのに専念した。
 本音を言えば、カップヌードルで良いから今すぐ温かいものを腹に入れたい気分だったので、野明が語る創作フレンチなる品にはまったく惹かれなかったし、その珍妙な料理を食べている自分たちの姿を思い描くことも出来なかったけれど。
「あ、ここだ――っけど……」
 弾む声が急に力を失う。
 遊馬は、その原因をじっくり見詰めてから口を開けた。
「お前、定休日くらい調べてから人を誘えよ」
 これは正当な要求だ、と思う。だが――
「ごめん」
 存外素直な謝罪が返ってきたことで、突然罪悪感が沸き上がった。フレンチなんて似合わないものを選ぶから、と続ける筈だった言葉を飲み込む。
「ま、こうしててもしょうがないし、新橋まで戻って飲もうぜ」
 行き当たりばったりなフォワードを上手く導くのがバックアップの仕事だ。
 熱いおでんでも突つきながら、野明の好きな日本酒を一杯。
 もう遊馬の脳裏には、その図がはっきりと浮かんでいた。

新橋あたりがお似合いです
……篠原遊馬(漫画「機動警察パトレイバー」)


遊馬は面倒くさい男。
勿論、野明は折角の非番デートだから、敢えていつもと違う店を選んだのですが……伝わることはないでしょう。

凄く好きな漫画ですが、二次創作を書くのは初めてなので、口調などがキャラクターらしくなっているか、少し不安です。
なお、アニメ版にはあまり詳しくありません。

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