花組公演「愛と革命の詩−アンドレア・シェニエ−」SS
ジュール・モランが、年下の同志を尊重するのは、彼を敬愛しているとか、信頼しているとか、そんな温い感情とは無縁の理由である。
同志ジェラールは美しい。
飾りを取り払い、生身一つで汚泥の中に立ってなお、白々と輝いている。
モランが思うに、その清廉な美しさこそ、革命の旗手として最も重要な資質であった。
民衆は、その美しさに革命の正義を見る。革命への期待が消え失せつつあるいま、ジェラールの美しさが革命政府に与える正当性は貴重だ。それゆえ――
モランは徴発した地下新聞を手に取った。見出しは、革命政府に批判的な詩人が書いた記事である。近頃、彼の詩を指して、民衆はこんなことを言うらしい。
すなわち、高潔、清逸、美麗。
刈り取らねばならない。民衆が知る美しいものは、ジェラールだけで良い。
粛清予定者の中に詩人の名を書き入れたモランは、新聞を破り捨て長靴で踏み潰した。
明日、千秋楽。