松岡圭祐著「万能鑑定士Qの事件簿」1・2巻

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
ある日、マスメディアに同番号の一万円札が送り付けられ、大規模な偽札製造の犯行声明が出される。科学鑑定でも偽札を判別できなかったことで、日本円の信頼は失墜、日本全土が急激なスーパーインフレに陥る。だが、万能鑑定士Qの凛田莉子は、店に持ち込まれた宝くじの鑑定から、偽札が「墨で書き足し、再度線維素コーティングを施して番号を揃えたただけの、本物の一万円札」だと解き明かす。

事件のネタバレはしても、犯人は分からないよう配慮してみましたが、如何でしょう。

「日常の謎」系の作品ということで読んだ本作ですが、実際は「非日常の謎」でした。

スーパーインフレに陥った日本の情景が、1巻は終末風でなんだか漫画チックに感じたのですが、2巻では現実味のある雰囲気で、現実から生じる「if」として受け入れられました。
色々な知識ネタは素直に感心しますし、インフレが「実は起きていなかった」という数字のトリックや、全然関係のない事件が最終的に結びつく辺りは面白かったです。
ただ、偽札の犯人を「悪人ではない」と言ってしまう点は疑問でした。インフレのせいで、銀行家など相当数の人が自殺したと思われるのですが……。悪意から始めたことではないけれど、自分の身近な人以外の迷惑は考えていなかったというのも事実でないかしら。

数年前まで超劣等生だったのに、感情を生かす記憶術を教わったことで博覧強記に変貌した主人公・莉子のキャラクターが強烈です。
ただ、知識をひけらかしているようにも見えてしまうので、好感を抱くには至りませんでした。これは、一般読者が共感できる対象でない「ホームズ」役が主人公であるための難点ですかね。
それを和らげる為に、元は天然バカだったという設定なのかも知れないけれど、私は天然系キャラは苦手なのでした。

なお、いつもシリーズ物は1巻だけ読んで感想をあげますが、1・2巻で1つの事件を扱っていたので、今回は2巻分まとめます。
普通に考えて、2巻分まとめて1冊で発行すべき作品だと思っていたら、四六版単行本「万能鑑定士Q」として、1・2巻合体の愛蔵版が同時発売されていました。

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