ジョージ・オーウェル著 川端康雄訳「動物農場 ーおとぎばなしー」
【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
横暴な人間を追い出し、動物たちは自分たちで農場経営を始め理想郷を作り出す。しかし、管理運営を担当する豚たちは私腹を肥やすようになり、権力闘争の末に粛清を始め、人間が支配していた頃より残酷な独裁が始まった。
ディストピアもの。
文体は「おとぎばなし」を演出する「ですます調」で優しい雰囲気なのに、非常に静かな恐ろしさがある作品。
政治の話はしない、というのが私のブログルールなのですが、こういう作品に対して政治思想から完全に離れた感想を述べるのは難しいですね。
動物たちの自治という寓話で、理想とかけ離れた現実の共産主義を批判していますが、対象を共産主義に限定せず、権力腐敗と独裁が始まるプロセスとして読むことも可能でした。
動物たちが自分たちで定めた「七戒」に、豚が但書を付けて意味合いを変えてしまう部分には、薄ら寒いものを感じました。
本編は文庫の2/3程度で、残りは付録として訳注、オーウェルによる序文「出版の自由」と「ウクライナ語版のための序文」の2編、訳者解説。
付録扱いであるこの「序文」が素晴らしいです。
共産主義を理想とする「ユートピア文学」というジャンルがあり、その後「ディストピア文学」が生まれたということは知識として知っていましたが、この序文を読んで経緯がよく分かりました。
そして、なにより心打たれたのが此処です。
だが、ローザ・ルクセンブルクが言ったように、自由とは「(異なる考え方をもつ)他者のための自由」なのである。同じ原則がヴォルテールの有名な言葉にもふくまれている。「君の言うことが大嫌いだ。だが、君がそれを言う権利をわたしは死を賭しても護る」と。
序文「出版の自由」より引用
言論・出版の自由とはなにか、考えさせられました。