エリス・ピーターズ著 大出健訳「修道士カドフェル 聖女の遺骨求む」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
イングランドの修道士たちが、ウェールズの寒村にある聖女の遺骨として引き取ろうとして、村人たちの反対に合う。しかし反対派の地主が殺害されたことで、遺骨の発掘が進められることになる。地主の死に不信を持った修道士カドフェルは、地主の娘と共に真相を調べ、遂に犯人に至るが、不幸にも犯人を死に追いやってしまう。カドフェルは聖骨箱の遺骨を遺体とすり替え、ウェールズ人の聖女はウェールズに、イングランド人の犯人はイングランドへ還す。

歴史ミステリー「修道士カドフェルシリーズ」の第一巻。
宗教的な奇跡と、合理的な物の考えが一つに解け合っていたり、イングランドとウェールズの気質差など、英国ならではの世界観が効いています。
なにより、修道士だけれど、神をも恐れぬタフネスで人間臭く聡明なカドフェルという男のキャラクターが立っていて、非常に面白かったです。

殺人事件が起こるまでに作品の半分くらい費やしていますが、そこまででも既に人間ドラマがしっかり折り込まれているので、事件が遅いという印象は感じませんでした。殺人事件無しで、聖遺物獲得にまつわる騒動を描くだけでも楽しめただろうと思います。
とは言え、ひとたび事件が起きれば、一体誰が犯人なのか、消去法で一歩ずつ詰めて行く捜査に、カドフェルと一緒に考えさせられました。
頭脳冴え渡る探偵物ではなく、実直に犯人を追い詰めて行く刑事物ですね。その割に、最後は物証を出せず自白頼りでしたが、時代的に仕方ないのかなと思います。

あと、遺体を運ぶ途中で臭うのでは、と感じたのですが、気候が違うからあまり影響ないのでしょうかね。

残念ながら、訳は少し不安定だった気がしましたが、読むのに支障があるほどではありませんでした。

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