スティーヴンソン著 村上博基訳「ジーキル博士とハイド氏」
【あらすじ】
弁護士アタスンは、友人との会話で凶暴な男ハイドの存在を知る。それは、アタスンの友人である高潔な紳士・ジーキル博士の相続人の名であった。アタスンが男の調査を始めたある晩、ハイドは殺人を犯し、失踪する。その後突如として博士が人前に姿を現さなくなり、使用人に応える声も別人のようになる。アスタンが博士の部屋に押し込むと、自殺したハイドの遺体のみが残されていた——
初めて読みました。
と言っても、人間の二面性や二重人格のことを慣用句的に「ジキルとハイド」と言ったりもする有名なタイトルなので、ジーキル博士とハイド氏が同一人物であることは最初から分かっていましたが、後半の手紙から伝わってくる自分の理性が失せる恐ろしさは、真相を知っていても迫ってくるものがありました。
私は、ミステリーやホラーというジャンルが不得意で避けてきました。本作も怪奇小説だと思いますが、人物や街並の丁寧な描写から、薄闇に包まれた19世紀のロンドンを覗くような、ドキドキする体験ができて面白かったです。
短編といっても良いくらい短い作品だったので、サラリと読めたのも良かったのでしょう。
訳は、全体的には原典通りのようですが、若干悩まされる箇所がありました。例えば、ジーキル博士とラニヨン博士をどちらも「医師」とだけ示すことがありましたが、その直前に両者の名前があった時は、どちらのことを指しているのか悩まされました。