ヘスター・ブラウン著 今泉敦子訳「逃げ出したプリンセス」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
ロンドンで暮らす庭師エイミーが同居人のホームパーティで知り合い、恋に落ちた理想の男性レオは、小国のプリンスだった。末端の王族とごく「普通」に結ばれるはずが、継承権の変更により皇太子の婚約者になってしまう。お妃教育と中傷に耐えるエイミーだが、パパラッチに不安障害の母を狙われたことから、婚約を解消する。行方不明の姉が見付かり家族が普通を取り戻した頃、王位継承の見直し法案を出して皇太子を下りたレオが、改めてエイミーに求婚し、二人は結ばれる。

上巻は、恋が実って付き合いだすときめき。下巻は、現実問題が押し寄せるハラハラ感がありました。
現代版シンデレラというべきお伽噺ですが、嫁ぎ先には、放蕩児の義弟が良い奴に見えるくらい、スーパーモデルの姑(予定)や小姑といった強烈なキャラクター、しきたりと公務の試練など揃っていて、身分差結婚の現実的な問題が噴出。これらをどう解決するか、期待してページを先へ先へ捲っていったのですが……

主人公エイミーは、庭師として仕事をしているときは生き生きしているし、性格的にも共感はできるのですが、極度の引っ込み思案、自虐、秘密主義といったところでイライラさせられました。
庭仕事は自分の仕事だといって手放さないくせに、皇太子妃の公務の方には不誠実です。「分かっている」「やります」と口ではいうけれど、力を割いているように見えませんでした。
公務を前に、何も告げず逃げ出した時点で、他人に多大な迷惑をかけています。それでもエイミーに固執するレオの気持ちも理解できません。
結末は、姉の継承権を正当にするという名目はあるけれど、結局、エイミーに皇太子妃は無理だから、レオが皇太子を下りたとしか言えず、結婚後、二人が母親と姉から軽んじられるのは間違いないでしょう。また、恋の熱情が醒めたときにレオが後悔しないのかも心配ですし、エイミーにとっても痼りになる気がします。
なにより、ゾエによる「2年後」の予言も無価値になってしまって、非常に残念です。

物語の最初から引っ張る実姉の犯罪も、正直、ひた隠しにするから余計に重くなるのでないかな、と思います。第三者の意見であって、彼女たちが前向きに捉えられないことは理解できるけれど。
第一、ロイヤルウェディングの相手となれば、普通、もっと厳重に身元調査しますよね。姉の存在がなかなか明るみに出ないのは、本書では唯一無理のあるところだと思いました。

訳は読み易いし、スマートフォンとGoogleとダウントン・アビーが登場するお伽噺は楽しかったのですが、あまりに地に足の着いた作品で、せっかくのお伽噺に自分で水を差してしまった気がします。

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