柏井壽著「鴨川食堂」

【あらすじ】
「“食”捜します」の一行広告に導かれ、悩める依頼人が看板も暖簾もない鴨川食堂を訪れる。彼らの語る過去の断片を手掛かりに、元刑事の料理人・流が思い出の味を探し出し提供する。

飯テロ本です。
主人公である探偵が依頼人の探している「食」を提供するというストーリ—構成の上、舞台となる食堂でもランチが振る舞われるため、食事シーンが多く、食欲が刺激されました。

しかし、依頼を受けて探し物をするという短編集でありながら、日常ミステリといって良いのかは疑問でした。
基本的に、流の博識がなんでも解決してしまうためです。
正直、依頼人が口にするヒントだけで正解に辿り着けるとは思えません。推理ではなく、事実を最初から知っており、調査期間に裏付けを取って相手を諭しているだけのように見えました。
依頼人の抱える問題に食が光を投げかけるというエピソードの組み立て自体は良かっただけに、その点が残念です。

また、流の娘こいしが、私には30代の女性と思えなくて戸惑いました。最初、小学生くらいの少女を想像してしまったのも原因だと思いますが、全体的に成人女性とは思えない言動です。鴨川親子の背景は深く語られていませんが、親の食堂手伝いと探偵事務所長をしているだけで、他の仕事はしていない模様。所長といっても、前述の通り、問題は父親である流が全部解決するスタイルで、こいしは依頼人の話を聞くだけ。ワトソン役としても機能していないため、キャラクターの存在意義が見えませんでした。
一方、お客さんたちは一癖ある人物たちで、特に食に五月蝿い常連の老婦人・妙が好きでした。

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