フレドゥン・キアンプール著 酒寄進一訳「幽霊ピアニスト事件」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
1949年に若くして死んだピアニストのユダヤ人アルトゥアは、覚醒した瞬間、1999年のドイツのカフェでコーヒーを飲んでいた。現代の音大生たちと友人になるアルトゥアだったが、ある演奏会を切っ掛けに殺人事件が起こり始め、容疑者になってしまう。アルトゥアは50年前の出来事と現代の知識から、犯人である蘇った男との因縁を解き、死者は再び眠りにつく。

単行本版タイトルは「この世の涯てまで、よろしく」。
どちらの題名も、あまりピンと来ない作品です。この中では、訳者あとがきにある原題「Nachleben(記憶の中に生きること)」が一番しっくり来ると思います。

序盤は、現代に蘇った1930年代のピアニストの青年の眼から世界を観る皮肉っぽさに味がありました。その調子と、幽霊が主人公かつ恋愛の予感もあることから、ファンタジックな展開になるのかと思いきや、蘇った友人と出逢って以降、現代のアルトゥアと、50年前のアルトゥアの物語が交互に描かれ、戦場を知らない知識人にとっての戦争と、迫害から逃げ続けた日々が分かるようになります。
率直に言って、私は現代パートと比べてしまうと、戦時下の亡命生活の方がぐっと面白く感じました。
特に、事件の犯人であるアンドレイを追う期間が長いのですが、作中の「幽霊の世界」のルールがそこまで重要と思わず、よく飲み込めないまま読んでいたので、状況が理解し難かったです。そのため、50年前の出来事の続きを読む為に、あまり興味が湧かない殺人事件関係の話を読み進める、という具合でした。
最後は少し呆気なく性急に畳んでしまった上、裏付けがないので腑に落ちなかったのが残念。

全編的に、描かれているものは愛と殺人で、哀しみが溢れているのに、なんとなくドライな独特の雰囲気がありました。主人公のキャラクターに起因するのでしょうが、ドイツ文学の一面でもあるのかな。
作中に登場する曲を良く知っていると、アルトゥアが現代の弾き手を腐す部分等がもっと楽しく読めたのでないかと思います。

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