ディムール・ヴェルメシュ著 森内薫訳「帰ってきたヒトラー」
【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
2011年8月30日、アドルフ・ヒトラーは突如ベルリンの公園で目覚めた。ヒトラーを模した芸人だと勘違いされた彼は、TVのコメディ番組に出演することになり、現代政治への強烈な「ブラックジョーク」で一躍人気者になる。そして、遂に現代政治に参画する再起のポスターが刷り上がる。
本書は全編、ヒトラーのモノローグで進むのですが、物事を彼流に解釈・再定義する様や、振る舞い、思考、演説力は正にアドルフ・ヒトラー。本人が現代に蘇って語っているかのようで、震撼しました。
これに関しては、訳も素晴らしい仕事をしていたと思います。
また、文庫版には注釈が着いているので、文化背景の違う日本人でも、全体的に理解し易くされていました。
前半はヒトラーが現代文明に戸惑う滑稽なシーンも多く、コメディではあるのですが、現代政治・社会への辛辣な視点には若干頷かされてしまう箇所もあり、とにかく最初から最後まで惹き付けられました。
ヒトラーは一切の妥協せず、1945年時点のナチズムのまま発言しているのに、誰もが彼を「変わり者だが才能のある芸人」と解釈しているせいで、彼の言葉を自分たちの文脈に勝手に置き換えて理解して受け入れ、熱狂していく様は、面白くもあるし、後ろめたさも感じさせられます。
後書き等で色々と危惧が書かれていましたが、こういう作品が、きちんと「風刺」として受け入れられるドイツは健全だと思いました。