つかこうへい著「蒲田行進曲」「銀ちゃんが、ゆく」

DVD感想の途中ですが、小説版を読みました。

芝居「蒲田行進曲」をつかこうへい自身が小説化したもの。第86回直木賞受賞作品。
表題作「蒲田行進曲」は、ヤス視点による小夏を引き取るまでを描いた「ヤスのはなし」と、小夏視点による階段落ちまでの「小夏のはなし」の二部構成。それに完結編として、更に階段落ちから5年後を描いた「銀ちゃんが、ゆく」を含めて読了。

まず、展開の違いで一番驚いたのは、最序盤、即ち「銀ちゃんの恋」で言えば1場Dの時点で、もうヤスは階段落ちをすると言い出している事でした。
それが、銀ちゃんの名指しと言う点も吃驚。しかも名指しされたヤスが「胸がキューンとした」と書かれているあたり、気持ち悪過ぎます(笑)。
舞台では割愛されている部分に、ほう、と思う事も多々ありました。「新撰組」が銀ちゃん初主演作だとか、舞台の「専務」は副社長と、同じく「朋子」はめぐみと合体してるなとか。それに、ジミーは大部屋の仲間じゃないんですね。沖田総司役と言えば主役級の役者ですから、当然ですよね。
しかし、何と言って良いものか、「蒲田行進曲」2編を読み終えた時点では呆然とした、としか言い様がありません。
これ程しんどい物語だったのか。あまり良い言い方ではないけれど思ったまま言ってしまえばゲスな物語だったのか。と、驚きました。
舞台「銀ちゃんの恋」で華形が作り上げたヤスは、終始一貫して銀ちゃんを愛していたけれど、小説のヤスは違う気がしました。愛が捩じれて憎悪に移行している。そして、銀ちゃんそのものに成り代わるかのように振る舞う。
小夏に対する暴力や、周囲へ吐き散らす悪意など、ヤスがどんどん人間的に嫌になって、しかも階段落ちが行われたと言う時点で終了してしまうので、正直座りは良くありませんでした。

ところが、この調子で続くのだろうかと滅入りながら読み始めた「銀ちゃんが、ゆく」は、これが驚くほど面白く、一気読みしてしまいました。
初めて銀ちゃんの魅力が分かった気がしました。
私は、「悪意のある行動を取る為に登場する」人物が苦手なので、銀ちゃんの父親と言うキャラクターには大変嫌気が差しましたが、その他は大変楽しく、時折クスリと笑わされ、銀ちゃんが死ぬまでと言うお話なのに読了感も良く、なかなかお奨めの作品と相成りました。
作中で撮影している映画「新撰組魔性剣」は、沖田が女性で、土方に惚れていて、竜馬も近藤も、最終的には土方も斬ってしまうと言うトンでもなく荒唐無稽な作品ですが、見てみたいなぁと思う力に溢れていました。銀ちゃんや、作中の人物が入れ込んでる「キネマ」って、こういうものなんだろうなぁと感じます。

ちなみに「銀ちゃんがゆく」で、一番株を上げたのは橘でした。冒頭の葬式での行動に、泣きたいような笑いたいような、不思議な愛を感じました。
大株主の息子と言う設定が良いですね。「銀ちゃんの恋」の真野すがたが橘でぐんと一皮剥けたのは、どこか地に足が着いてない、泥臭さがないと言う部分で役が合っていた為かもと思いました。
また、語り部を担ったマコトが銀ちゃんのことを本当に好きなので、読んでいてほっこりしました。

そんな次第ですので、お読みの際は「蒲田行進曲」のみでなく、完結編「銀ちゃんがゆく」も併せて読まれる事をオススメ致します!
もっとも、どちらも入手難な本ですが……。

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