• 2012年12月21日登録記事

五十音順キャラクター・ショートショート【え】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 英国一のセールスマン、王太子デイヴィッド愛用のお墨付きを頂いた商品は、どんな高額商品も引く手あまた。人気の余り、一週間のうちに値が倍につり上がることも少なくない。
「殿下、今度は国産ワインの売上に貢献されましたね」
 マイクスイッチを切ったガイ・バージェスはそう揶揄したが、表情では親しみを込めて笑っていた。
 デイヴィッドはまた、ラジオ番組のやり取りの中で最近お気に入りの品に触れたのだ。明日の朝から、市場は大いに賑わうだろう。この件を依頼していた友人も、十分懐を潤わせて満足するはずだ。
「私はなんでも売るのが仕事だからな」
「なんでも?」
 相槌のような然り気無さで、ガイが念を押してくる。
 デイヴィッドはそれに気付かないふりをしながら、鷹揚に頷いた。
「そう、なんでも」
 ワインでも、スーツでも、自動車でも――祖国でも。
 最後のひとつを口に出して言ったことはない。だがデイヴィッドはいつもこの商品を手の中に隠して、人々が付ける値を確認していた。
 猛禽の眼を隠して笑う目の前の色男も、この国に数多く潜む仲買人の一人である。無論、その事実をお互いに確認したことはなかったが。
 デイヴィッドはなんでも売るが、安売りしたことはない。だから、つり上げてつり上げて、この国を買おうとするすべての者をきりきり舞いさせてやる。そしていつか誰の手も届かない価格になったとき――この男が現すだろう本性を指差して笑ってやるのだ。
 そう、デイヴィッドは英国一偏屈で意地の悪いセールスマンだった。

英国一のセールスマン
……エドワード・アルバート・クリスチャン・ジョージ・ アンドルー・パトリック・デイヴィッド・ウィンザー(舞台「エドワード8世 −王冠を賭けた恋−」)


書き上げた後に、役名としてはエドワードでなくデイヴィッドだったことに気付いて、どうしようかと思いました。ファーストネームはエドワードなので、許容範囲ということでご了承下さい。
あと、あくまで舞台上の設定から膨らませて書いておりますので、史実との整合性は求めないでください。
……ということで、お願いしてばかりの後書きになってしまいました。