佐藤多佳子著「神様がくれた指」
【あらすじ】
出所した昔気質のスリ・辻牧夫は、電車内で財布をスった手練の少年少女を追って、利き腕を脱臼させられる。スリのプライドと復讐のため彼らを追った辻だが、逆に妹同然の咲と共に彼らに捕らえられてしまう。焦る辻は、自らリーダーの逃走資金をスるゲームを持ち掛ける――
表紙のイラストと背表紙の粗筋で「スリの男と占い師の女の話」だという先入観を持って読み始めたため、占い師(昼間)が女装した男だった時点で、ノックアウトされました。
また、終盤にある、電車内でひたすら財布をスリ続けるシーンは、こんなものを描いてしまって良いのかと危惧するくらい、危険な面白さがあります。
ただ、全体的に登場人物の行動理由が理解できませんでした。
実は同じ作者の「しゃべれどもしゃべれども」でも、同じ印象はあったのですが、主人公が真っ当で真っ直ぐな男であったので、その行動を肯定的に受け止めました。しかし、本作は牧も昼間も犯罪(窃盗と違法賭博)を犯しているので、どうしても心底から肯定できません。
最終的にも、辻は自分がスリであることを肯定できたのかもしれないけれど、それは、彼の父親や昼間がギャンブルに依存しているのと同様、刺激を求めて自制できないだけのように思うのでした。
軽犯罪だと言っても、普通の人間に迷惑をかける行為だし、それをもっと反省して欲しいところ。
昼間の方が、頭で理解できるキャラクターだし、辻に感化されるところなど可愛げがあるので、彼の視点でこの事件と接すると「モラトリアムだった青年が社会に出る作品」になるのですが、辻目線の部分の方が要素として大きいので、そう読む直すのは私には難しいかな。
とは言え、大変読み応えがあり、スリや占い師という独自の世界を覗く体験ができる貴重な作品ではありました。
一種のピカレスク小説だと思って読むのが正しかったかも知れません。
唯一納得できない点は、ネタバレになるので続きに隠します。