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1幕ラストまで。

【1幕11場C シーク・オブ・アラビア】
ルディはジューンの新作「シーク」でアラビアの酋長を演じ、好評を博す。

このシーンは秘かに女装ファンが増えているのですが、全体的に引きの映像なので少し確認し難いのが残念。いつもはDVD映像に対して「もっと引いて撮って欲しい」と言っておきながら勝手ですけれど。
映画「シーク」での相手役アグネスは、ルディと並ぶと人形のように小さくて可愛いです。少女と言うより、子供みたいかなぁと思いますけれどね。

【1幕12場 血と砂】
続いて「血と砂」の撮影に入るが、ルディとナターシャの結婚を知ったジューンは姿を消してしまう。ナターシャも、今後はジューンに脚本を書かせないと宣言する。

ルディを挟んで並び立つ、純白のジューン(カルメン)と漆黒のナターシャ(ドンニャ・ソル)。ゾクゾクする構図です。
東京公演では、ファンのコーラス音量がかなり強かったのですが、DVDは弱めに調整されているようです。3人の台詞が聞き取りやすくなっているほか、コーラスの「独り占めしたい、私たちのルディ」と言うフレーズが囁きのように聞こえるて、恐怖を煽るのが良い配分になっています。
去っていくジューンを引き留めようとするルディは、この時点で、自分が選択を間違えたことに気付いているのでは。
2人の才能ある女性に翻弄された挙げ句、最終的には2人共を拒絶しているように見える振り付けで、この時のルディの心境を色々と想像させられます。
結局のところ、ジューンが青年ルディ(ロドルフォ)から作り上げた「ラテンラヴァー」ルドルフ、そしてナターシャはそのルドルフから更に三次創作しようとしているわけで、どちらもルディから見れば本当の自分でないキャラクターを押し付けようとしていると感じる側面があったのかも知れません。

5回目ですが、なかなか先に進まないので、今回は軽めにまとめます。

【1幕10場 グロウマンズ・チャイニーズ・シアター前】
「椿姫」のワールドプレミアを中継するラジオで、ナターシャはルディとの婚約を宣言する。

ファン集団の中に紛れ込んだ若手男役たちの女装が可愛いシーン。舞台では押し出しの良い女装組に注目していましたが、DVDで全体を見ると、日頃お淑やかな娘役たちが、女装組に合わせた思い切った振り付けで踊っていることに少しドキドキします。

DJジョニー・マンデルの解説で、映画俳優と言っても、ルディはあくまで「アイドル」扱いであることが分かります。
実在のナジモヴァは、同性にも人気がある演技派女優だったらしいです。もしかすると、「本物の俳優」と共演したことで、偶像でしかない自分を思い知ったのだろうか、と考えさせられます。だから、ナジモヴァのデザイナーであるナターシャを信頼していったのかもしれませんね。
ただ、彼女を全面的に肯定しているのかと思いきや、ナターシャの「ルディは私のインスピレーション」発言に複雑な表情を浮かべたり、婚約宣言も押し止めようとしてるのが気になります。愛情を感じている訳ではなかったのかも……?

【1幕11場A ジョージ・ウルマンのオフィス】
ルディはナターシャに薦められるまま、パラマウント映画に移籍する。この事件により、ジョージはメトロ映画を解雇される。

再び、電話のやり取り。
復唱することで、舞台上に存在しない相手の台詞を観客に伝えるのは基本的な手法ですが、実に自然な演技になっています。また、横で聞いているアリスの演技がジョージの動揺に合わせて巧く反応するので、短いのに何度見直しても感心するところばかりのシーンです。

【1幕11場B ラスキーのオフィス】
パラマウント映画の副社長ラスキーは、ジューンに脚本を書くよう迫る。

ルディの売り出し方を見れば、ラスキーが愛情を持って彼を使おうとしてる訳でないのは直ぐ分かります。ジューンの横顔が固く強張っているのは、自分が愛ゆえに作ったキャラクターを、商売目的だけで使われることへの嫌悪でしょうか。
ちなみに、ジューンはフリーだと言われていますが、史実ではメトロ・ピクチャーズの重役だったのですね。当然、「シーク」には関わってないようです。
個人的には、このシーンでのみ確認出来るワンピースの袖が可愛いなぁと思います。この舞台は、主要女性陣の衣装がお洒落で良いですね。

今回は、ナジモヴァ&ナターシャ語りに終始しています。

【1幕8場 椿姫のセット】
「椿姫」の撮影中、ルディに母親の死を伝える電報が届く。傷心のルディを、共演女優ナジモヴァの専任デザイナー、ナターシャが「母親の魂に会わせる」と誘う。

開幕から40分近く経っていますが、ここで2人が初登場。
まずは、ロシア人女優のナジモヴァ。2009年「逆転裁判」以降の純矢ちとせが演じた役の中で、一番好きです。元々やや大袈裟な台詞回しで「大芝居」気味の持ち味が、ロシア訛りとサイレント映画の大女優としての風格を出すのに一役買っていました。脚本上のキャラクターとしても、結構美味しいですよね。
そして、ナターシャ。もっと女装風味になるかと思いきや、綺麗でした。このシーンのナターシャの服が格好良くて、好みです。上着を脱いで、インナーがどうなってるのか見せて欲しかったなぁ。
DVDを見ると、この頃から一方的にジューンを敵視してるんですね。ジューンがナジモヴァに挨拶すると、顔を会わせたくないように去るのに、やり取りはじっと観察しているところなど、細かい芝居が興味深かったです。

この作品における「ナターシャの才能」については、観劇中に捉え方が何度も変わりました。
最初は、ルディが感じた通り「天才」なのだと思っていました。しかし何度も見直す内に、実際は違う気がしてきました。
ナジモヴァのドレスは着付け途中と仕上がりに大差がないし、この後の「シーク」「血と砂」の衣装はもっさり気味。舞台では遠目で綺麗だと思ったアルマンの衣装も、DVDで細部を見ると刺繍がゴテゴテしていて、悪趣味の一歩手前なんですよね。
セットに当てる照明はナターシャが指定した色の方が断然綺麗なので、色彩感覚が優れていたのは間違いないのですが。

この作品はフィクションですが、史実においてナジモヴァは同性愛者だったと言われています。
それを知って観ていると、この舞台でもナターシャはナジモヴァの愛人なのでは……と感じました。大女優が気に入っている愛人だから、デザインを任されているし、周りからも賞賛されているのかな、と。
最大の肝は、ルディが、ナジモヴァを「ナジン婆さん」と呼んで怒らせた瞬間。ナターシャが大笑いすると、途端にナジモヴァも機嫌を直します。
日頃クールな愛人が声を上げて笑う姿を見られたから、ルディを気に入ったように思うのですが、穿ち過ぎでしょうか。

【1幕9場 ナターシャ・ラムボアの家】
ナターシャが紹介した占い師メロソープはルディの母の霊と交信し、「女が母親の代わりを果たす」と予言する。ルディはナターシャの誘惑を拒めず、一夜を過ごす。

粗筋で、メロソープの占いをどうまとめるか悩みました。ルディ視点で物語を纏めた時に、ナターシャが聞いた占いの結果は彼の耳に入っていない&影響していないと思いましたので、このようにしてみました。
……しかしこの予言を採用すると、ジューンは結局、最後まで「お母さん」ポジションだったと言うことになりますね(苦笑)。
2011年版花組「ファントム」では「母親の愛と、恋人の愛は違う」と感じたのですが。もっとも、ルディが欲していたのは「家族」なので、「女(妻)が母親の代わりに家族になる」と読み取れば良いのかな。
ルディ自身は占いを信じていなかったと思いますけれど、助言としては効いていたのだと思います。

メロソープ自身には悪意も善意もないと思うのですが、声に毒がある役者なので、数々の占いが指す物を色々考えさせられます。
DVDの収録回は、占いの途中に骨が弾ける演出が巧く働かず、どういう仕掛けか確認したかったのでちょっと残念。メロソープが盆を叩いて崩していたのでしょうか。

ルディ、ナターシャ等は前場から衣装を変えて登場。
ルディとナジモヴァは前場の衣装は「舞台衣装」なので着替えて当然として、ナターシャも着替えている辺り、美意識の強さを感じます。
この公演は頻繁に衣装替えがあって、楽しいですね。

アラバマ生まれのアメリカ娘ウィニフレッド・オショーネシー、と言う正体を話すことでルディの心を掴んだナターシャ。
彼女は恐らく、前場で「ロドルフォ・グリエルミ」の名を聞き、ルディが芸名であることに気付いたのだとは思います。それで、自分と同じ(本名の自分を脱する為に名前を変えている)と思ったのが、大間違いだったわけですが……。

それにしても、メトロ所属のナジモヴァの専属デザイナーが、パラマウントの副社長と親しいのは何故でしょうか。
ジョージもナターシャとパラマウント社の繋がりを知っていたようですし、元はパラマウントで働いていて、後からナジモヴァの専属になったのでしょうか。

【1幕6場 黙示録の四騎士のセット】
「黙示録の四騎士」撮影現場で、ルディはジュリオ役を勝ち取る。

戸が開くと、八百屋舞台で踊るジュリオ役ダンサーと、その相手役ベアトリスがタンゴを踊るセットが登場。
面白いアプローチだ、と思ったのがこのダンサーです。
監督から「あんな男しかいないのか」と罵倒され、ベアトリスをリフトすれば落としてしまう駄目ダンサーですが、彼単体の踊る姿を見ると、決して「ダンスが下手」な演技はしていないのです。むしろ、舞台の中央で生き生きと機敏に踊っています。
ただ、どうしようもなく自分に酔っているのですね(笑)。
ベアトリスが不満を抱きながら付き合っているのに、独り善がりなリードで心の距離がどんどん開いて行くのが目に見えて分かります。足を振り過ぎて彼女のお尻を蹴ってしまう──しかも気付いていないらしい、と言う小芝居がDVDの片隅に映っていたのには爆笑しました。
役を降ろされてしまった後は、カメラが上手側を映さないので、スタッフたちに詰め寄ったり、ポーズを決めてアピールする姿が観られず残念です。逆に、観劇中は上手を凝視していたため気付かなかった下手の小芝居が細かく映っていて、舞台とDVDで2度楽しめました。

ルディが鞭を鳴らして舞台に駆け上がり、ダンサーを追い払ってベアトリスの手を取る流れは純粋に格好良いです。
一方、ベアトリスも態度を急変させて、ルディへのアピール全開で色気を漂わせながら踊るのが面白いです。「芝居」として踊れる良い娘役ですね。

監督からは、ジューンへの信頼の強さが伺えます。
ルディのことも、ジューンが推す候補だから、と最初から受け入れる面があったような気がします。それが、実際にジュリオとして破綻のない役者だったので本気で気に入ったのでは。
ジュリオを主役に書き直すと言う話になって、「今日中に書き直します!」と言い切るジューンは凄いですね。創作意欲が激しく刺激されて、筆が走る状態なのでしょう。作者として、本気で入れ込んでいるからこその断言だな、と感じます。

【1幕7場 ジョージ・ウルマンのオフィス】
一躍大スターとなったルディは、次作「椿姫」に挑む。自信が持てないルディだが、ジューンに励まされセットへ向かう。

短い暗転の間に、髪型をオールバックに変更して登場するジョージ。
無理矢理撫で付けているようで、後ろが「ひよこ」のようになっているのが可愛いです。DVDの回は、割と纏まってる方でしょうか。

この時は「(ルディの)お母さんだったの?」と揶揄され否定するジューンですが、彼女がルディの擬似「母親」として接することを選んだのは、事実だと思います。
衣装も前場より少し落ち着いているし、自信なさげに猫背で現れるルディを励ます姿は、正に授業参観の母親。
意識的ではなかったかも知れませんが、男と女として対峙することを避けて、マザコンのルディにとって居心地が良く、受け入れられやすいポジションを選んでいたのだと思います。
擬似父親ジョージと、擬似母親ジューン、そして愛すべき息子のルディと言う3人で居続けられたなら、それも良かったのでしょうが──。

次回公演での退団者が発表され、惜し過ぎるメンバーに涙しつつ前回からの続きです。
しかし、じわじわとボディブローのように来る退団者発表ですな……。

【1幕3場 メトロ撮影所の入口】
エキストラに登録したルディだったが、なかなか採用してもらえない。

配役係は、まだ男役の声になっていないと思ったら、研究生2年目なのですね。蒼羽りくに似た面長の宝塚的美人の顔立ちなので、是非技術を磨いて頂きたいです。
観劇時は、猛烈なアピールをするエキストラ希望者たちに注目していましたが、DVDではルディの周辺がよく分かります。体は大きいのに気が弱いらしい女エキストラ(風馬翔の女装)に場所を譲ってあげたり、女性の役の募集になるとアピールするように発破をかけている姿が見られました。女性に優しい辺りが、とてもルディらしいです。
細かい所では、霊魂役の時にルディも演技でアピールして、それを見ていたエキストラが次に老人を演って役を獲っていたのですね。ルディ、発想は良かったのに運がないなぁ。

【1幕4場 ジューン・マシスのバンガロー】
空腹に耐えかねたルディは、ある家のオレンジの枝を手折り、脚本家ジューンと出会う。ジューンは、ルディが制作中の映画「黙示録の四騎士」のジュリオ役に必要な条件を備えている事に気付き、カメラテストを受けるよう勧める。

前場の暗転時の音楽がそのままラジオ放送になる見事な繋ぎ。単に繋ぎというだけでなく、ジューンが物を書く時に音楽を聴くタイプだと言うことが、後の伏線になっているのが素晴らしいと思います。
DVDのアップ映像で観ていると、ルディの下手な嘘を聞いて、ジューンの口元がむずむずしてるのが面白いです。
ジューンは、宝塚歌劇では珍しい年上のヒロインですが、大人の女性としてちゃんと魅力的に表現されていて好感が持てます。年上の余裕を吹かしながら、ルディを可愛く思って見守っている暖かみがあり、更に恋してちょっぴり浮かれる可憐さが絶妙の塩梅ですね。物書きの端くれとしては、ルディと言う存在にインスパイアされると直ぐタイプライターに向かう辺りに「これぞ物書き!」とニヤリとしました。
一人残されて、ルディがタイプライターに興味を示すシーンは、東京では部屋の中を見回す演技が付け加えられて、より自然になっていました。地味な変更ですけれど、これによって好奇心旺盛でやんちゃな感じがより強くなっていたと思います。

【1幕5場 ジョージ・ウルマンのオフィス】
ジューンからメトロ映画の宣伝課長ジョージを紹介されたルディは、ルドルフ・ヴァレンチノと言う芸名を与えられ、新人俳優に仕立て上げられる。

冒頭は、ジョージが電話で一人芝居。この舞台では、電話口で一人芝居するシーンが何度もあり、しかもそれを演じる全員が巧いので感心しました。ここの場合、ジョージの反応から電話口の向こうのジューンが浮かれてる感じが透けて見えて、楽しくなってきます。
ジョージからジューンへの愛情は、ジューンが巧みに躱してしまうので、コメディ扱いになっていますけれど、この作品の重要ポイントだと思います。つまり、ジョージという最上級の「いい男」が惚れ込んでいる相手だ、と言う理由で、この先の展開でジューンがナターシャに破れても、彼女が「いい女」であり続けるのです。
ちなみに、ジョージは後にジューンを「お母さん」と揶揄するけれど、彼が「ルドルフ・ヴァレンチノ」の名付け親だと言うことを考えると、ルディにとっては父親みたいなものですよね。
ここでは生着替えに加えて髪型の変更もあります。音楽に合わせ進めないといけないわけですが、間に合わなかったらどうなるのでしょう? 生オケなら安心なのですけれどね。そして、変身させられる時の「生まれも育ちも消し去ってしまう」と言うフレーズが、実はナターシャとルディの類似性を示唆していたことに気付きました。
演出に一つだけ文句をつけるとしたら、「開けゴマ」を言い終わってから扉を開けて欲しいなぁと思います。