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氷室冴子著「クララ白書」

【あらすじ】
中学3年生から学校附属寄宿舎「クララ舎」に入った桂木しのぶは、編入生の蒔子と菊花と友情を育みながら、学園生活を繰り広げていく。

ライトノベルの古典。
携帯電話やパソコンは出て来ないけれど、古さを感じさせない瑞々しさで、普通に現代に置き換えて読むことができます。
吉屋信子的「少女小説」の要素を現実的に描いて万人向けにしたのが昭和後期の「クララ白書」、そこから逆にリアリティを除いてファンタジー化したのが平成の「マリア様がみてる」でないかな、と作品から時代の移り変わりを感じました。

メインキャラは今読むと典型的な造形に感じますが、サブキャラがいい味を出しています。個人的には、生徒会会長の三巻と大学生の光太郎さんが好き。有馬美貴子のニックネームが「有間皇子」というのも、知的で良いですよね。

ウスパー著「この世界がゲームだと俺だけが知っている」

【あらすじ】
廃人ゲーマーの相良操麻は、ある日ゲーム〈New Communicate Online(通称:猫耳猫)〉の中に入り込んでしまう。だが猫耳猫はただのゲームではない、バグ満載の大人気クソゲーだった! バグと制作者の悪意(お茶目)に満ちたゲーム内を、ソーマは仕様を逆手に渡り歩いていく。

全体的に捻くれているけれどゲームに対する愛があり、叙述トリックに心地好く騙される作品。

「小説家になろう」連載中、人気オンラインノベルの書籍化。
書籍化した場合はネット公開を取り下げる(または一部をダイジェスト化にする)作品が多い中、現在も下記アドレスにて1話から最新話まで閲覧可能です。
http://ncode.syosetu.com/n9078bd/

私も連載版の読者です。
オンラインで無料で読める小説を、わざわざ書籍で買うユーザーがいることが不思議だったのですが、今回、実際に購入してしまいました。
大ボリュームの書き下ろし外伝(※)も然ることながら、書籍で手元に置いておく価値は「コンピューターに電源を入れないで読める」「最新話を読みつつ過去の伏線確認ができる」という点でしょうか。
逆に、書籍化によるマイナス要素は「イラストが付く」ことかも知れません。VRゲームという舞台上、もう少しリアル寄りの造形をイメージしていたので、作品と絵柄および各キャラクターイメージが異なりました。

主人公が異世界にトリップするお話は昔からありますし、トリップ先をTVゲームした作品も珍しくありません。実は私が初めて1人で完結させた創作小説も、ゲーム内トリップ話でした。
幾多のトリップ物と一線を画す本作特有の面白さは、トリップ先がただのゲームではなく、「くそゲー」であるということ。主人公が仕様とバグと盲点を利用し、正々堂々と邪道で攻略するという「いい意味で酷い」面白さに尽きます。
小説を読んでるのに、実際のゲームプレイを見ている感覚に近いのです。ゲーマーであるほど、「あるある」と共感したり「ない」と突っ込んで楽しめると思います。

(※)2巻収録の外伝自体は本来のゲーム「猫耳猫」の雰囲気が伝わり面白かったのですが、書籍版のみの読者だった場合、本編中で明かされる前にイーナのその後が分かってしまうのは勿体ないと思いました。

松尾清貴著「偏差値70の野球部」-難関合格編-

【あらすじ】
天才野球少年の新は、中学校で不慮の暴力事件を起こしてしまう。それでも野球の名門校・海鵬を目指して一般受験するが、合格した学校は進学校・海應の間違いだった。

タイトルに惹かれて読んでみました。
ところが、1巻では表題の「偏差値70の野球部」の活動が始まらなかったのです。偏差値70を謳うに相応しい頭脳派野球は、今後に期待でしょうか。
ただ、肝心の顧問とキャプテンの野球理論が、私の好みとは真逆です。
高校野球は条件が特殊なので、「絶対に打たれないピッチャー」がいれば試合に勝つ可能性はあるけど、それを受ける最低限レベルのキャッチャーと、1点を獲る打撃力のある選手は必要です。第一、どんな名ピッチャーだって全打席を空振り三振にはできませんから、エラーしない守備力も必要。しかし海應高校野球部には、どちらも備わっていないのだから、新がいても意味がないのでは、と思います。

設定は、荒唐無稽。
「カイホウ」と「カイオウ」を聞き間違える可能性は否定できないけれど、普通漢字を見て気付きますよね。学校まで行けば門に校名があるだろうし、ユニフォームにももちろん書かれているはず。
大体、高校受験の問題は学校裁量なので、いくら勉強をしたとしても、目標とする学校が違えば、出題傾向や深度が違ってお話にならないと思います。
主人公がバカだから、という理屈で納得するしかないのが残念です。

その「バカな主人公」は、一人称で書かれているため、比較的感情移入しやすいです。中学校の暗黒時代には泣きそうになりました。
高校の寮で同室になった佐久間も、なかなか面白いキャラクター。
しかし、他のキャラクターは主人公との間に会話が成立しないので、読んでいてストレスが溜まりました。

五十音順キャラクター・ショートショート【り】
→ルールは2012年12月17日記事参照


 隣国の王妃を見舞い、夫の悪口を散々聞かされて退出したところで、当の国王と出会した。
 一瞬、悪戯を見咎められたような居心地の悪さがあったが、そこで萎縮する柔な姫君ではなかったので、リーズラインはこの機に思う存分、噂ばかり耳にするこの王を観察してやった。
(言われるほど、悪い男ではなさそうじゃが)
 柔らかい笑みを浮かべる王は、妃が語るほど無思慮な野蛮人には見えない。どちらかと言えば、温和で頼りない男だ。
(若長が期待したような名君にも見えぬ)
 リーズラインの友人たちは、この王に一族の未来を託した。その決断は誤りでなかったと思いたいが、今のところ確証は得られない。
(グラスターシャもサラも、シヴァ王は「ぽややん」じゃと言っておったからのぅ)
 親友たちの評を思い出して、リーズラインは頷いた。
「……あの、姫?」
 二度躊躇った後にそう呼び掛けて、シヴァ王は笑みを困った色に変えた。
 続く言葉を待って、リーズラインは首を傾げる。ふと、王の後ろに控えた側近が迷惑そうな表情で睥睨してくるのを見て、自分が進路を塞いでいたことに気が付いた。
 この王は、自己主張すら臣下に劣る。
「うむ、邪魔をしたのじゃ」
 リーズラインは胸を張って道を開けてやった。だが――
「どうぞ、これからも妻と仲良くしてやってください」
 思いがけない言葉に、リーズラインは目を見張った。
 リーズラインは何処に行っても敬遠されることが多い。なんせ、あの母の娘だ。それは致し方ない。幼少を魔族の都で過ごした為か、少し他人と違うところがあるのも事実だ。
(……ちょっと良いやつかも知れぬの)
 ほんの少しだけ評価を上方修正してやることにして、リーズラインは頷いた。
 そういえば、彼の妃は采東の姫だから、この異国では友だちもいないだろう。
(リーズラインが友だち一号で――そのうち、サラを紹介してやろう)
 クシアラータの元王女なら、お互いが知るシヴァ王の話題で盛り上がるはずだ。
 その気配りが別の騒動を起こすとは知らず、爛漫な姫君と隣国の王は笑顔を交わした。

隣人とは仲良く
……リーズライン(小説「クシアラータの覇王」)


最初は、シヴァの事務次官に転職したギザニエと再会する話にしようと思ったのですが、ギザニエと姫では話が盛り上がりませんでした。

古い作品なので軽くご紹介しておくと、講談社X文庫ホワイトハートで発行された、高瀬美恵作の本編全10巻+外伝2巻からなる小説です。
最初は復讐譚で、4巻辺りからギャグ&ラブコメ路線になっていく上に、アオリ文句は「運命の王女サラの物語」なのに、主人公はシヴァ王だったという変なシリーズですが、結構好きでした。

鷹見一幸著「小さな国の救世主」1〜3巻(全5巻)読了。

【あらすじ】
引き蘢り気味の日本人高校生龍也は、アドベンチャーツアーの参加先で内戦に巻き込まれる。政府軍に狙われる姫巫女と知り合ったことから、彼女の部族を守るためインターネットを駆使し、戦局をひっくり返す手助けをしてしまう。成り行きと勘違いで軍師に祭り上げられた龍也は、日本に帰国する為、内乱を終結させようとする――

元々3巻構成だったらしく、区切りが良かったので3巻でとりあえず読了。
主人公の常識が通じず、一方で主人公の意外な発想が周囲を変えるという展開で、言わば異世界召喚モノを現実設定に置き換えたお話でした。

主人公龍也に一切の特殊技能がなく、直接戦うことはせず、天才的な閃きもなく、どこまでも普通の発想で勝っていくのが面白い要素でした。
特に、1巻は小銃で戦車を退散、2巻は爆撃機を破壊するというだいぶ派手な作戦で龍也が頑張り過ぎていると思ったのに対し、3巻のラジオ放送は非常に地味だけれど物語らしい人間の善良さへの理想があって良かったです。
では龍也がお気に入りかと問われれば、彼の独善的な面、視野の狭さ、思い込んだら一直線なのに説教臭いことを言う辺りがちょっと苦手。
一番格好良いのは、リネム大臣とシャリフ大尉でしょうか。シャリフは越権行為が過ぎる気もしますが、成すべきことを見定めている人は気持ちが良かったです。

全体的には、ライトノベルらしい勢いがあって面白かったです。
商業作品にしては誤字脱字が多くて、web小説みたいなノリを感じましたが、そこは良くも悪くもということで。