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冲方丁著「ストーム・ブリング・ワールド」(MF文庫版)

【あらすじ(1巻最後までのネタバレ有り)】
悪しき“黒のセプター”に国を滅ぼされ、対抗する秘密結社の一員となったリェロンは、指導者の予知に従い、次の戦いの鍵を握るという少女アーティを守るため、カルドの神殿がある街へ潜入する。学生として出逢い、次第に交流を深める二人。しかし街中で仕掛けられた戦いに応戦している内に、リェロンの方が黒のセプターと誤解されてしまった。騎士団の手で捕まったリェロンはアーティの目の前で処刑されてしまうーー

ゲーム「カルドセプト」の世界観を基にした2003年出版小説のリライト版。
理想的なゲーム・ノベライズですね。
ゲームを知っていても面白いし、直接「カルドセプト」自体は知らなくても、ファンタジー世界のボーイミーツガール物が好きな人なら、面白いと思います。
長い物語の1エピソードという感じのまとまりですし、アーティの旅立ちで終わるので、続きも読みたくなります。

同盟の使いかただとか、システム面が非常に巧く世界観に組み込まれていて、なるほどと膝を打ちました。
特に、先日体験版を遊んだ「カルドセプト リボルト」では、セプター同士が仮想空間で戦うという設定になっていて非常に違和感があったのですが、本作のセプター戦は、現実世界の地形を使って戦う形で表現されていて、その点が嬉しかったです。
そういう戦いであるが故に、セプターの戦いに巻き込まれる一般人の存在だとか、誰が敵セプターなのかという謎解きなど、色々に発展できたのだと思います。

ただし序盤は、リェロンたちが兆候には気付いていながら、よく考えず敵の罠にハマっていくので、少し苛つきました。必要な展開だということも分かるけれど、愚かな行動を取られると、キャラクターの魅力が薄れる気がします。また、リェロンの会話中に突然カルドを発動するというやり方も、性格付けとして面白いけれど、実際にそれが有効打になるシーンがなかったので、頭のいいやり方には見えなかったです。

なお、冲方氏が本作を書くことになったわけとして、同居していた柳川氏(作曲家)の存在が1巻あとがきで説明されています。
柳川氏の名前で、古い記憶が呼び起こされました。
……冲方丁氏って、「ドラゴンクエストⅡ 任侠鉄砲玉伝説」の作者だったのか!
氏の小説は一度も読んだことがないと思っていたのに、意外なところで拝読してました(笑)。

雪乃紗衣著「彩雲国物語 はじまりの風は紅く」
http://www.kadokawa.co.jp/saiunkoku/

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
貧乏生活を送る紅家の姫・秀麗は、報酬に釣られ、政務を放棄する国王・劉輝の教育係として後宮に入る。実は暗愚な王を演じていた劉輝は、秀麗との出逢いを経て王の責務を思い知り、政務を行うようになる。秀麗は、役目を終えたと判断して後宮から去るが、やがて初の女性官吏として王宮に戻るのだった。

以前「ライトノベルなのに中高年女性に人気」という評を見て、大河ドラマ風の恋愛小説だからかな、と予想していました。その予想が大きく外れていたわけではありませんが、「仙人の存在」というとファンタジーな設定が含まれていたのは意外でした。さらに率直に言うならば……読んでいて恥ずかしくなるくらい、BLチックだな、とも思いました。
頑張る主人公、美男子、美少女、恋愛、政治、宮廷物、歴史物、ファンタジーと多様な要素が入っていて、これだけサービスされると「参りました」という気分。
歴史物にしてはノリが軽くて少し驚いたけれど、ライトノベルなので気になりませんでした。
私の好みとは合わなかったけれど、十分面白いです。しかし、猛烈に「クシアラータの覇王」が読み直したくなったのはなんでかしら。世間では「十二国記」や「ふしぎ遊戯」と比較されることが多いみたいですね。

由羅カイリ先生の表紙や挿絵は、とても美麗でした。
余談ですが、「アンジェリークルトゥール」も、新しいイラストレーターを起用するより、由羅先生にこういう感じのタッチで新たに描いていただけば良かったのでは、と思います。

浅葉なつ著「神様の御用人」

【あらすじ】
神様の御用を聞く「御用人」の代理を命じられたフリーターの良彦は、狐の方位神・黄金とともに、信仰を失い力を失った神々のために奔走する──

短編構成。
オチ等は概ね想像通りで、物語の筋の出来が特別良いとは思わなかったけれど、特定の信仰を持たない私が見ると、神というテーマがその時点で非日常ですし、サクサク読めて面白かったです。
特に、黄金をはじめとする神様たちのキャラクターが立っています。これも、ライトノベルや漫画でよく見る性格付けの範疇ではあるのですが、オリジナリティはなくても生かしていれば良いと思います。個人的には、一言主大神がお気に入りです。

作者が「神社参り」好きというだけあって、立地説明等がきちんとされているため、聖地巡礼がしやすそうです。楽しいでしょうね。
ただ、登場人物が全員標準語なので、京都という設定は頻繁に忘れました。東京設定ではいけなかったのかしら。

犬村小六著「とある飛行士への追憶」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
敵地に残された都市の傭兵飛行士シャルルは、単機で中央海を翔破し、皇太子の許嫁ファナを本国まで送り届ける密命を受ける。敵中を飛ぶ複座偵察機の中で二人は心を交わすが、地上に戻れば身分の壁が二人を引き裂く。シャルルはファナを迎えの飛行艇に渡すと、一人都市へ戻っていった。

元はガガガ文庫ですが、加筆のある単行本版で読みました。
イラストがないお陰で、二人が飛ぶ空の美しさや、ファナの美貌を自分で想像できて良かったと、個人的には思います。

ノスタルジックな雰囲気の作品。
まとめてしまうと非常に単純な筋ですが、古式ゆかしい、結ばれない結末を守ったのが、ライトノベルというレーベルではなかなか偉い判断でないかと思います。
お姫様と身分違いの恋をして別れるという筋は、映画「ローマの休日」的と評されているようですね。それは確かにその通りなのですが、私自身はどちらかと言うと空戦の描写が熱く、そこに引き込まれて一気に読んだ感があります。
そしてゲーマーゆえに、シャルルと敵エース・千々石の一騎打ち、そして終章で生き延びた人の証言を拾っていく辺りに、ゲーム「エースコンバットZERO」を感じました。海猫作戦について、作中活躍していない波佐見真一なる編隊長ではなく、千々石が語っていたら完璧に「ZERO」だったのにと思うと悔しいくらいです。

田中芳樹著「タイタニア」全5巻

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
全宇宙を実効支配するタイタニア一族。だが、タイタニアの有力者を奇策で破ったファン・ヒューリック提督の出現を引金に、一族の長たる藩王の後継を巡る争いが表面化した。藩王の煽動で若き公爵同士が闘い、抗争の末、タイタニアはすべての有力者を失い、宇宙はタイタニアの支配から解放され、秩序なき時代へ突入する。

一見似たようなパーツを使って、「銀河英雄伝説」とは逆の方向を目指したと思われる作品でした。
途中、刊行が途絶えた時期があり、その境目が3巻なわけですが、この巻が滅法面白いんですね。2巻までは割と地味な話という印象だったのが、3巻で焦点が決まり、ついにアリアバードとジュスランがイドリスと全面対決することになる。
……というところで、再開の見込みなく二十年も放置された当時の読者は、堪らないですね。
二十年ぶりに出た続刊である4巻は、3巻からの流れがちゃんと生きているし待ちに待った艦隊戦で引き込まれましたが、完結となる5巻は、終盤に辻褄の合わない箇所があったり、ゼルファの処理が適当だったりと、風呂敷を畳むことに集中し過ぎて色々手抜かりがありましたね。

新しい時代を作るエネルギーがあった「銀河英雄伝説」に比べると、破滅を描いた作品であるため、主要人物であるジュスランが自虐的で熱量を持たないキャラクターであることが面白いなと思ったのですが、最終的にはすべて藩王の狂気としてタイタニアの滅亡をまとめてしまったのが残念でした。内部崩壊を願うものが頂点だったら、滅亡するのは当たり前というか……。
タイタニア一族はほとんど全員が、誰かの足を引っ張ろうとしていたり底意地の悪さを持っているので、アリアバード、バルアミー、リディア姫といった、清涼剤のような面々が余計に好ましく感じられました。
アリアバードに関しては、元々誠実で地味というポジションがキルヒアイスやミュラー的で好きだったのが、3巻の「きどるな、ばかっ!」で頂点に達しました。
バルアミーは、青臭さが良い。
リディアは、最初はこまっしゃくれた子供かと思いきや、とても聡明ないい子で、けれどただの純真無垢ではなく、自分と祖国を高く売りつけようとする計算高さも持ち合わせた、素晴らしい王女様でした。
ちなみに、ジュスランには「将軍にならなかった慶喜」という印象を持ちました。