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ダーリン・イン・ザ・フランキス6話より、小説的なもの。
通常、放映中・連載中の作品は、あとの展開でひっくり返る可能性があるため二次創作しないのですが、ゴローのいい人っぷりに負けました。


言えなかった。乗らないでって、言えなかったーー!

慟哭するイチゴを叱咤し、ステイメンの席に戻ったゴローは、しかし操縦桿を握ることなく顔を覆った。
当然だ、言えるわけがない。
「ヒロが死ぬかもしれない」なんて、曖昧な噂に基づく不安ではない。「ヒロは死ぬ」と知っていた自分だって、言えなかったのに。
そうしてヒロに乞われるまま口を噤んでおきながら、出撃前にヒロと話すようイチゴの背を押したのも自分だ。
それをゴローはずっと、二人への友情ゆえだと思っていた。
けれど、本当にそうだったのだろうか。
言えなかったと聞き、泣きじゃくるイチゴを見て、いま自分の心が揺れ動いているのは、イチゴに責任を押し付けようとしていたからでないか。イチゴでもヒロは止められなかった。だから、俺が止められないのも仕方ない。そう思いたかったのでないか。
だとしたら自分には、言えなかったと泣く資格もない。
ゴローは歯を食い縛り、手の中に涙を閉じ込めた。

デルフィニウムはまだ動けない。


ダリフラの子供たちは恋愛感情というものを知らないので、自分の感情も理解できなくて大変だなあと思います。考え過ぎだよ、ゴロー!
本作では、ゴローの真面目で有能で苦労人気質で不憫な感じが何より好きですが、さらに自罰的でもあってくれると良いなと思っています(笑)。

併設コンテンツ「アーデリカさんのレシピ」のショートショートを発掘しましたので、日誌の穴埋めに公開します(表現の細微な変更あり)。
ちなみに、本作の初稿は2005年1月15日でした。なんでアイスなのに寒い時期に書いたんだろう、と思いつつ、再投稿も寒い時期となりました。

あずきアイス

 些かの郷愁に駆られた月が、郷里の甘味を求めたのは数日前。
 幸いにして、食材は望むだけ得られた。少しばかり寒がりの教室長らと歓談しつつ、暖房機の上で静かに小豆を茹でる、その作業すら心を慰めた。ただ、うっかり手持ちの豆をすべて茹で上げたのは、やりすぎだったかも知れない。
 甘いものは少女たちの大好物であったけれど、少し、ほんの少し多すぎるそれには、工夫を必要とした。
 善哉、きんつば、いとこ煮、それからそれから——。

「小豆って、ねぇ」
 月と、同室の天麗が最後に行き着いた頼みの綱、アーデリカは、綺麗に整えた指先で小豆をひとつ押し潰した。名の通り小豆色の皮が抵抗なく平伏し、白い中身を覗かせる。
「こういう食材、わたしはあんまり馴染みがないのよね」
 院に集った彼等は、本来それぞれが異なる世界の住人である。当然、食事を含む生活様式、文化文明の間には高い壁が立てられていた。
 現に、今こうして部屋に大量のゆで小豆を抱えてしまった天麗と月の間でも、食べ物に対する認知は隔たりがある。例えば天麗は、好みに因らず生野菜が食べられないし、月は辛いものがどうにも馴染めない。
 それは料理名人として知られるアーデリカも、例外でない。院内で供されるものに限ったとしても、知らぬ食材の方が多いのだ。
「それにもう加工してあるんでしょう?」
「はぁ、甘う煮とります」
 諦めの色を浮かべ始めた月が応えた。なに、若干風味は落ちるだろうが冷凍して保存する手もある。長い目で見れば決して食べきれない量でないのだから、週に3度善哉にすれば良い。
 だが、自分で潰した小豆を舌に乗せよくよく甘みを確かめながら咀嚼した後に、アーデリカはよし、と肯いてみせた。
「天麗向けの簡単なお菓子にしましょう」
 名を呼ばれ、天麗は小さく屈めていた背をびくりと伸ばした。
「生クリームを軽く立てて」
 言いながら生クリームを泡立て器で混ぜた、かと思うと彼女は、ひどく適当な案配でそれを投げ出してしまった。
「あの、アーデリカ様」
 呼び掛けておきながら、あまりの僭越さに天麗の声は最後は蚊が鳴くような音になった。
「ゆるくありませんか?」
 戦きつつであっても、指摘はごく真っ当である。ボールの中の生クリームは真白い泡が揃った程度の硬さである。このままでは、何に添えても流れ落ちてしまうだろう。珈琲の中に入れるのが程良い用途か。
 アーデリカは両頬を持ち上げた。すっきりとした顔立ちが、愛嬌ある印象になる。
「ホイップクリームにするのが目的じゃないのよ」
 月と天麗は顔を見合わせた。
 学年上の友人を信頼はしているが、納得できるか否かは別の問題である。
「はい」
 それゆえ、差し出された手に月は思わず復唱した。
「はい?」
「小豆を渡す!」
「はい!」
 煮汁ごと小豆を流し入れると、アーデリカはそれをゆっくりと混ぜ始めた。真白いクリームが、次第に小豆で色付いていく。
「後は冷やすだけ」
 その言葉を媒介に不思議の力が働く。冷気が容器を包み、即席の冷凍庫と化す。
 あ、と目を見開く間もなく、二人の目の前で小豆のクリームは凝固した。
「お手軽アイス完成。どう?」

 :

「美味しいです」
 ひんやりとした感触が喉を落ちていく様に、天麗は瞳を細めた。小豆の甘みもまた程良く舌を楽しませる。
 仕上げの簡単さもまた堪能のポイントである。
「けど」
 極力控えめに見えるよう言い添えて、月はスプーンの先で凍ったアイスの表面を突いてみせた。
「……ちょっと、冷やしすぎたかしら」
 アーデリカの課題は料理でなく、相変わらず力の制限法であるらしい。

レシピのおさらい

分量
  • 生クリーム 200cc
  • ゆで小豆の缶詰 1缶(お好みで200〜400g)
手順
  • 生クリームを半立てにする
  • ゆで小豆を汁ごと加え、混ぜ合わせる
  • 容器に入れ、冷凍庫で冷やし固める
補足

3時間も冷やせば食べられます。
よく固まるので、場合によっては少し室温で溶かしてから召し上がってください。

唐突に、リハビリ新作!

昨夜寝入り端にふと思いつき、朝になっても覚えていたら書こう、と誓ったところ、無事に書けました。
ここ数年、「小説らしい文章」が書けなくて苦しんでいたのですが、書けるときは書けるものですね。同時に、こういうストーリーのないお話を書くのが好きだ、と改めて思いました。


 しいなは小さく息を吐くと、右手で左胸の襟を掴んだ。
 迷いを訴える心臓の辺りを擦る内に、ふと、硬い感触に触れる。懐中に忍ばせていた「それ」の存在を思い出したしいなは、二度、親指で縁をなぞった。翼を広げたその意匠に触れていると、落ち着くというより、研ぎ澄まされていくような感覚がある。
 心を決まるのに必要な時間は、それで終わった。
「戒めか?」
「うん」
 おろちの問いにしいなは一度頷き、しかし、かぶりを振った。
 それーーくちなわに渡された鶴のお守りを持ち歩くようにしたのは、確かに、自分の力不足を忘れず戒めるためだった。
 けれど今となっては。
「むしろ、支えかもしれないね」
 くちなわとは一騎打ち以来会っていない。兄のおろちも密かに探していたが、見付かっていないらしい。だが生きている筈だ。生きてさえいれば、あの男はしいなの生きる姿を見ている筈だ。ならば、恥じるところのない姿を見せねばならない。その義務感をしいなに与え、支えてくれているのがこのお守りだった。
 お守りの中にくちなわの式神が残っているのかどうか、しいなには分からない。もし残っているならば、くちなわのお陰でしいなは自分の理想を守り続けられているのだと、感謝の気持ちも伝わっていれば良いと思う。
 しいなはもう一度お守りに触れ、幼馴染みを強く想った。


オチはないまま寝落ちたので、最後は尻すぼみ(苦笑)。

このSSの出発点は「ED後も、しいなはくちなわのお守りを持ち続けているのだろうか」という疑問でした。それに対して、お守りはしいなにとって「支え」に変わっていくのでないかと解した形です。そもそも「戒め」は「支え」と近いと思います。
FF12のアーシェの台詞「危険な力だろうと、支えにはなるのよ」の影響を受けたかもしれません。当てはめたのが、本日のタイトル「発信機だろうと、支えにはなるのサ」ということですね。

ちなみに、「くちなわのお守り」の形は覚えていませんでした。さすがに15年近く経ちますからね。
くちなわだから蛇かな?と失礼なことを思ったのですが、攻略本を見たら鶴でした。なかなか凝ったお守りで驚きました。

今年も間もなく終わろうとしています。
1年間応援ずっと来て下さった方も、今日たまたまお越しくださった方も、本当に有難うございました。

今年、サイト更新をしませんでした。
旧「ユアンさまサーチ」の検索サービス提供終了に伴う改装作業はしましたが、プラスの更新ではなく、マイナスの更新でした。
実は、最後にゼロス題を更新しようと思って、書いていたのですが……ということで、下記は没バージョン「決心」(クラトスルート)です。


心を決めた。
その瞬間、ゼロスは疎ましい地位のみならず、すべての感情から自身が解放されたことを知った。
最早、恨みも怒りも悲しみもない。
——そして、喜びもない。
否、喜びが彼の内にあったことなど一度もなかった。喜びはいつも他者のものであり、時折それがゼロスの近くで輝き、光の一部を投げ掛けただけだ。
だが、最後に見知った光の、いかに強く大きかったことか。
その輝きを思い出し、ゼロスはふと他意なく微笑んだ。それが彼の決心に与えられた、ただ一つの報酬だった。


ゼロス題の消化分を読み直していたところ「怒り」で似たようなフレーズがあったので没作としました。さすがに10年以上書いてると、どんなSSを書いたか記憶があやふやになってきます。特に「お題」系は無理矢理捻り出している物も多いので、好きなフレーズをやたらと使い回しているかもしれません。
気付いて没にしたので、正規版はクラトスルートではないゼロスの「決心」を描いてみようかな、と思います。

あけましておめでとうございます!

昨年中は大変お世話になりました。
ちょうど10年前になる、2005年の年賀ネタ(シンフォニア)を発掘しましたので、いきなりですが、ドン!と転載。


 第81回箱根駅伝、最後の走者が掛ける紫紺の襷が終着点を踏んだ。
 全十九校、二十チームの完走。殊に史上五校目となる○澤大学の四連覇は素晴らしい。見事な逆転、堂々の復路凱旋。正に快挙だ。
 だが――
 勝負の世界とは、喜びだけで終わるものでない。
 映写機が興奮冷め止まぬ現場の様子を伝える中、クラトスの背後で立ち上がる気配があった。
「どこへ行く」
 問う声は鋭く世界を切り裂き、対するロイドもまた強い意志をもって応えた。
「俺も走る」
 嗚呼、やはり子はその道を選ぶのか。
 振り向いたクラトスの苦い想い宿る視線を、彼は真っ直ぐに受け止めた。
「十月の予選会まで、時間がないんだ」
 あるひとつの出場チームが、箱根の道に涙を塗布した。
 過去の区間記録を更新する激しい走りを見せながら、十一位。シード権を目前で奪われた。
 あと一秒。
 あと一歩でも早く、走れたなら。
 前走者に僅かに及ばぬまま終着を切った走者は頭を下げた。己が走りに対する喜びはなく、繋いだ暗紅の襷すら今はただ重いだけ。全身全霊を賭し駆けた男の、その魂が足りなかったなど、誰が言えよう。
 だが、彼は敗者だった。
 名門と謳われたのも過去の残光であるのか。
 否、違う。その走りの輝きを、クラトスはよく知っていた。それは古い時代に彼が追い、今取り戻した光。ミトスの理想、そしてロイドの純粋なひたむきさと、あれは同じ煌めきだった。
 ――ロイドが踵を返した。
「待て」
 制止の声を子は振り払った。
「早まるな、ロイド」
 クラトスとて彼の気持ちは分かる。
 だからこそ、止めねばならない。
「ロイド!」
 しかし伸ばした手は届かず、閉ざされた戸に遮られ最早届かぬ声が、部屋の中に沈痛な色をもって落とされた。
「早○田大学は……お前には無理だ!」


今年はどんなドラマが待っているのでしょうか。
私も、ロイドに負けずに今年はなにごとにも走ってみたいと思います。

今年もよろしくお願いいたします。