ナオミ・ノヴィク「テメレア戦記」から「2 翡翠の玉座」及び「3 黒雲の彼方へ」
1巻が面白かったので、2・3巻を一気読み。
1巻が割と冒険活劇でスカっとしたのに比べると、2巻は人権問題、3巻は第四次対仏大同盟と、だんだん重苦しくなってきました。この調子だと、4巻は大陸封鎖令の時代かな。イギリスの苦難が続きますね。
2巻以降テメレアが嵌まってしまったドラゴンの人権問題は、単なるファンタジー戦争史に収まらない、難しいテーマですね。もう少し軽く楽しく読めた方が、個人的には嬉しかったのですが、作品としては非常に重厚感が出て来ました。
一方で、次々と魅力的なキャラクターが投入され、また1巻から引き続き登場している面々もどんどんキャラ立ちして、人物たちのやりとりは増々面白くなって来ました。
私としては、副キャプテン・グランビーの成長ぶりがとても嬉しかったです。1巻初期の反抗的な厭な奴から、本当に気持ちのいい男になりました。
突っ走りがちなタイプではありますが、彼の場合は軍人として自分の立場等を把握し、状況判断した上での言動なので、自分の思うがままに迷惑発言をするテメレアや、完全なる戦闘狂のイスキエルカと違い、自己責任において言動してるところが好きです。竜を得てテメレアのクルーから外れたのは残念ですが、ローレンスとは違う種類の良いキャプテンになると思います。
他の面々では、ドラゴン医のケインズ、万能タイプの諜報員サルカイの今後の活躍に期待したいです。
アルカディたち野生ドラゴンは、オスマン帝国での失敬な退場で出番は終わりかと思いきや、思いも寄らぬ局面で再登場してアッと驚かされました。折角だからこのまま英国に住み着いたら面白いけれど、野生の彼等にハーネスを付けるのは無理かな?
そして、今後も大きな障害となって立ちはだかるだろう、ライバル竜リエン。
執念と憎悪で泥々した感じにゾッとしつつ、敵=ローレンスたちと対峙していない時の穏和な彼女は凄い良い感じなので、非常に複雑です。
ヨンシン皇子はローレンスにとっては敵だったけれど、リエンとの交流を考えるとかなり懐が深く興味深い人物だったと思います。彼の死は、テメレアの今後にとって大きなマイナスだったと思います。
ほんの僅かな瞬間でしたが、ナポレオン・ボナパルト本人が登場したのも見逃せないポイントですね。
何というべきか……私の場合、宙組公演「トラファルガー」のイメージが強く、ナポレオンの台詞がすべて蘭寿とむの声で再生されるため、登場シーンを読んでいる間中、笑いが止まりませんでした。
「わかった、わかった、乳母殿」なんて蘭寿声で脳裏に再生されると、一気にナポレオンへの好感度が上がってしまいます。
逆に、1巻では「立派な士官」だったローレンスが、テメレアへの愛情過多になりすぎて、個人的にはひいてます(笑)。
テメレアを失望させたくないと言う気持ちは理解できるけれど、ちゃんと指導しておかないと、英国に戻った時に社会を混乱させてしまうのではないでしょうか。
少し勢いは落ちましたが、4巻も読みたいと思います。
最後に少しだけ苦言。
2・3巻とも、訳者のあとがきでネタバレされたのが残念でした。少なくとも、イスキエルカの存在は知らずに3巻を読みたかったです。
「読まなければ良い」と言われればそうですけれど、そこに活字があれば読むのは読書人の習性。ましてや、ネタバレがあるとは警告されていなかったのですから。
次の巻へも興味を惹き付けたいという意欲はわかるのですが、少し直接的すぎるのではないでしょうか。