黒野伸一著「限界部落株式会社」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
独立前のリフレッシュに、山間の過疎地にある亡き祖父の空き家に寄った元行員の多岐川優は、高齢化で生活の維持が困難な限界集落を目の当たりにし、営農組織を作って故郷の再生に乗り出す。利益優先の優の生産計画に対し、地元の伝統産業に愛着と誇りを持つ農家の美穂は度々衝突するが、役所やJTに頼らず自分たちで村の再生を進める内に、お互いの長所を認め合うようになる。

地方再生をテーマにした小説。
このジャンルは「県庁おもてなし課」「メリーゴーランド」など、毎回手堅い印象があります。今作もその印象に違わず、エンターテイメントとして楽しく読めました。
また、「都会は悪、田舎は善」という枠に嵌めることなく、プライバシーがなかったり、厚かましい老人たちの言動、噂の広まりなど、田舎の暮らしには煩わしさがあることも描写されているバランス感覚が良かったです。

本当の限界集落は、自分たちで営業したりした程度で救われるものでないだろうとも思うけれど、全力で頑張る姿は素敵なものです。
何より、優が熱意だけの人でなく有能であり、周囲からもその有能さを認められているところが気持ち良かったです。
外から人を呼び込むために、観光温室や美術館を造るという計画になった辺りで、箱モノ行政と変わりないように思ったけれど、「日本のバルビゾン」を目指す着眼点は興味を惹かれました。

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