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はらだみずき著「サッカーボーイズ 再会のグラウンド」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
武井遼介は、小学6年生進級と共に、サッカーチームのキャプテンの座とポジションを失った。認められない挫折感や、思うようにプレイできない苦しみ、重なる敗北を味わうが、新監督・木暮との出会いで、仲間たちと「楽しいサッカー」を取り戻して行く。

少年たちのスポーツもの、という鉄板ジャンルですが、冒頭はちょっと暗さに驚きました。
遼介はまずキャプテンマークを奪われ、さらに移籍してきた新人に自分のレギュラーポジションを奪われ、試合でも一人ミスを叱責されます。涼介の挫折感がリアルすぎて、こんなクラブにいたら、プレイし続ける意欲を失ってしまうのでないか?と何度も思い、峰岸監督の指導に憎しみを覚えるほどでした。
そのくらい、遼介の辛さは真に迫っていました。
木暮監督に変わったら、直ぐにチームが改善されるというものでもなく、具体的な指示を出してもらえないなど、峰岸監督との違いに子供たちが戸惑うというのも、非常に現実的ですよね。

キッカーズとの戦いはどう転ぶかわからなくて楽しめたし、終盤、優勝候補相手にPK戦で勝利するという番狂わせを演じるあたりはフィクションらしい盛り上がりがあったけれど、そのあとに待つ若潮イレブンとの戦いは結論からさらりとまとめてしまって、全体的にはいまいち盛り上がらないままに感じたのが残念でした。
結局、木暮が子供たちに教えたかったのはサッカーの楽しさだったのかも知れないけれど、彼らが答えたように「勝ちたい」という気持ちに報いる指導も欲しかった気がします。
ただ、勝ちたいという子供たちに対して、「弱いチームと戦えばいい」と答える発想は一本取られたと思いました。

文庫版の解説はあさのあつこ先生。下記のくだりに思わず、突っ込みました。

スポーツ小説は数多ある。わたしはあまり好まない。

野球小説、書かれてますよね!?
スポーツ小説の解説なのに、スポーツがお嫌いなんだなとよくわかる内容でした(笑)。

増田俊也著「七帝柔道記」

【あらすじ】
増田俊也は、旧帝大で行われるという寝技至上の特殊な柔道「七帝柔道」に惹かれ、二浪の末、北海道大学柔道部に入部した。だが「練習量が全てを決定する」と言われる七帝柔道の世界では、人としての尊厳を失うような過酷な練習が繰り広げられていた。

文庫で600ページ強という、かなり分厚い一冊。その密度で、入学から2回生の夏までが描かれています。

解説で語られているように、私も「こんな世界が実在するのか!?」と思いつつ読んだのですが、作者の実体験に基づくお話だそうです。
部活モノですが、表紙イラストに描かれているような、明るく爽やかな日々は待っていません。壮絶です。そして進むほど、重苦しく辛い日々になっていく感があります。意識を失ったり、大怪我をするほどの練習を積んでも、試合で奇跡が起こることはなく、結末ですら沢田征次が退部するだろう暗い未来が暗示されています。

しかし苦しみ続けても主人公が退部しなかったのと同じように、強い吸引力があり、一気に読みました。報われることもないのに、爽やかさと達成感もあり、読後感が良かったのは不思議です。

宮下奈都著「よろこびの歌」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
志望の音大付属高校に落ちて新設校に進んだ御木元玲は、著名な音楽家である母へのコンプレックスや挫折感を抱えていたが、二年生の秋、校内合唱コンクールの指揮者に選ばれ、再び音楽に向き合った。熱の入った指導にクラスの生徒はついて来れず、伴奏の失敗もあってコンクールは散々な結果に終わる。だが後日、マラソン大会で最終走者になった玲を応援しようと、クラスから自然発生した合唱を聞き、「歌わせよう」としていた自分の失敗と、音楽の喜びに気付く。

あらすじを記載した表題作を含めて、複数人の視点で綴る、7話の連作短編構成。
女子高生たちのお話ですが、割と静かに淡々と進みます。

あらすじを極限まで圧縮すると、「好きだった音楽を封印して孤立していた少女とバラバラのクラスメイトが、校内合唱コンクールでの指揮を切っ掛けにまとまる」という話になったはずですが、コンクールは切っ掛けでしかなく、それからの日々の方が長く重要な構造。
でも最後は、迷いや諦めを抱えていた少女たちが、再びの合唱でそれぞれの思いに区切りをつけていく、爽やかな成長物語になっています。

なお、4話目の「サンダーロード」で同級生の牧野史香は幽霊が見えるという設定が明らかになり、急なファンタジー要素に驚きました。彼女が気づく「玲を見守っているお爺さん」の存在が、最終的な玲の物語に大きく影響を与えたとも思えず、この点だけ、ちょっと引いてしまいました。
それ以外は、挫折と再生という普遍的なテーマでありながら、諦めずにがむしゃらに頑張るだけが正解ではないリアリティと、それでも一生懸命に頑張った時に放たれる青春の輝きが美しいお話でした。

最近経済・金融系のビジネス書ばかり読んでいます。せっかくなので、読書感想として良書をご紹介します。

小宮一慶著 「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書

第一版は2015年7月6日。
財務諸表の基本的な読みかたを、テキパキと明確に解説してくれる一冊。タイトルではROEを大きく取り上げていますが、財務指標の用語を教えるだけでなく、その数値の正攻法の上げかたと裏技的な上げかたの見分けかた、企業と投資家の思惑などが盛り込まれていて、ナルホド!と思えました。
なお、私はキャッシュ・フロー計算書に苦手意識があるのですが、こういう本で読むと簡単な作りだと思えるのが不思議です。

田村正之著 はじめての確定拠出年金

第一版は2016年10月14日。
非常にコンパクトに纏まっていて、わかりやすい本です。メリットだけをあげるのでなく、デメリットもあげているので信頼性が高いです。特に、運用時、受給時とそれぞれの税制を明確に解説してくれるのは助かりました。
元本割れが大嫌いな私でも、貯金より運用で始めようかな、と思えるし、そのための切り口を与えてくれる一冊でした。取り敢えず、個人型確定拠出年金ナビはブックマークしました!

誉田哲也著「武士道シックスティーン」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
剣道一筋で育った香織は、中学最後の大会で東松学園の無名選手・早苗に完敗する。なぜ負けたのか理解できない香織は、早苗を追って東松学園高校に進学。中学から剣道を始め勝敗に拘らない早苗と、勝利至上主義の香織は反発し合うも、やがてお互いの価値観を認め合っていく。

青春部活小説。
剣道の知識はなくてもすいすい読めます。
また、部活小説ではあるのですが、同時に少女友情ものの要素が大きく、主人公二人の微妙な距離感にニヤニヤさせられました。

香織が極端な性格で、防具を着けていない早苗を打ったり、先輩との練習で立ち関節を極める等の「勝てば何でも良い」という振る舞いに気分が悪くなったのですが、中盤以降是正されて、終盤は真っ当な剣道スポ根になって気持ちよく終わりました。
香織は、武蔵を心の師とし、昼食は握り飯、一人称は「あたし」なのに「武運長久を祈る」とか武士言葉で喋る、という「属性盛り過ぎ」感があって、最初は仰け反りましたが、段々彼女の語り口のファンになりました。

早苗が転校して二人が物理的には離れてしまった分、続編は難しいだろう、と思ったのに、高校3年生までキチンとシリーズを続けたのはお見事。
結局私も、「武士道セブンスティーン」「武士道エイティーン」と最後まで付き合ってしまいました。面白かったです。