• カテゴリー 『 宝塚歌劇 』 の記事

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宝塚宙組「天は赤い河のほとり」「シトラスの風 −Sunrise−」15:30回(e+貸切)。

ミュージカル・オリエント「天は赤い河のほとり」

原作は長編漫画なので、キリの良いところで纏めるだろうと思いきや、まさかの全28巻を1時間35分にまとめる荒技だった、と発覚した宝塚大劇場の初日から、かなり不安を抱きつつ原作ファンをお連れして観劇。

というわけで、観る前は詰め込み過ぎを懸念していましたが、実際に観た内容に、同行者の意見も加味すると、枝葉として伐ったエピソードが多過ぎたのでないか、と思います。物語の主人公をユーリからカイル皇子に移す都合もあって、ユーリの苦労は割愛され、結果として軽い恋愛ドラマになっていました。
話自体が破綻しているところはなかったけれど、正直私としては、然程実績のないヒロインが持て囃される少女漫画的展開に感じ、惹かれるお話ではありませんでした。観劇後に同行者から補完説明を受けて、原作には興味が湧きました。

ビジュアルや役の多さなど、宝塚ファンとして観れば楽しい公演でした。
またあまり宣伝されていませんが、下村陽子先生がメインテーマなど2曲提供されているなど、音楽的には面白いところもありました。

ロマンチック・レビュー「シトラスの風 −Sunrise−」

Special Version for 20th Anniversaryと銘打ち、20年前の宙組初公演で上演された「シトラスの風」をリマスターしたショー。過去に「II」「III」とタイトルを更新しつつ再演されていますが、私はこれが初見です。
リバイバルされるのも納得の、まとまった内容で良かったです。観終わった後、題名に相応しい爽やかな印象が残りました。でも実は、半分くらいの場面は新作だったみたいですね。

  • ステートフェアー
    主役二人はお互いに一目惚れしていましたが、私はまどかの白いワンピースに一目惚れ。ディズニーアニメを思わせる、明るい可愛らしい場面でした。
  • Mr.Bojangles
    テーマが好きです。老いた名ダンサー、という寿組長の演技も絶品。
  • ノスタルジア
    突然のモノローグに面食らったけれど、唯一ドレス物で見応えありました。中でも、軍服を着るために生まれてきたかのような真風に感心。手袋を投げて(決闘を申し込んで)終わるのは、却って新しいですね。
  • 明日へのエナジー
    非常に感動的な群舞。しかしてるてる坊主みたいな衣装が、最後までそのままなのは気になりました。
  • 白燕尾
    やや珍しい白燕尾での男役群舞でしたが、格好良かった!

と、各場面はほぼ気に入りました。
その反面、場面繋ぎの銀橋渡りが、宝塚らしい昭和歌謡感たっぷり且つ謎衣装で笑えました。

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宝塚花組ミュージカル・ゴシック「ポーの一族」11:00回(e+貸切)。

原作未読。
オタクの基礎教養として、ギムナジウムものだとか、少年愛が云々という偏った知識だけ持った状態での観劇となりました。恐らく、一度しか観ないのであれば、原作を読んでから観劇した方が良かったのだろうと思います。

ビジュアルは文句なく、役者はよく熱演していますし、絢爛豪華な舞台です。だから退屈はしないのだけれど、総括としてはなんだか平坦な印象でした。
出来事が羅列しているだけで、ここぞという盛り上がりが見当たらない、総集編的な作りだったのが要因かと思われます。ストーリーラインに問題があるわけでもないし、それぞれの出来事は魅せてくれるのですが、もう少し取捨選択して強弱をつけるべきだったんじゃないかな。
原作の要素を取り零さないようにしたせいで、慌ただしい展開になったのかなと思いきや、交霊会は別エピソードからの要素なんですね。割と尺を割いていたので、これをスッキリさせて、各シーンに時間を再配分していたら良かったのでは。
色々盛り込みすぎで、舞台上の時間の流れが性急だったように思います。永遠を生きるバンパネラにとって、時間はもっとゆっくり流れているのでないかしら。見た目のゴシックな重さと釣り合わないように思いました。
そんなわけで、話題の大作、そしてミュージカル界では指折りの演出家念願の舞台化、という前評判に対しては、若干の消化不良がありました。

個人的に一番良かったのは結末。現代社会のどこかに今もエドガーはいる、と感じさせる余韻が残りました。

以下、特筆したいキャストのみ。花組からご無沙汰していたので、生徒の見分けはついていません。
エドガー@明日海りおは、代表作、代名詞として名前が残るのでないかなと思います。
一族に加わる前の普通の少年らしさと、バンパネラになってからの魔性の存在感の両立がよかったです。そして、自分から望んでそうなったわけでない哀しみと苦しいと怒りが渦巻いていて、その感情が舞台を動かしていたと思います。
メリーベル@華優希は、病弱で華奢な美少女の雰囲気が出ていて、エドガーの溺愛ぶりも納得です。
ジェイン@桜咲彩花は、善良で綺麗だけれど田舎の地味な娘という雰囲気が抜群。メリーベルへ見せる母性と、先程まで自分の膝に縋っていた少女が塵と化した時の衝撃の見せ方が良かったです。
ビル/ハロルド@天真みちるは、メインの役は出番が多いハロルド(アランの叔父)の方だと思うけれど、ビルの方で歌唱力を披露していて、ここでグッと掴まれました。

フィナーレは、アグレッシブな男役群舞が良かったです。

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宝塚雪組「ひかりふる路 〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜」「SUPER VOYAGER!ー希望の海へー」を観劇。

ひかりふる路 〜革命家、マクシミリアン・ロベスピエール〜

雪組新トップスター・望海風斗の大劇場お披露目公演。

宝塚の御家芸である「フランス革命モノ」に、革命のフランスを描く新たな秀作ができましたね。
フランク・ワイルドホーン作曲の楽曲が重厚な上、ほとんどのシーンが歌でやりとりされるので、海外ミュージカルを観ているような充実感のある一時間半でした。それしか上演時間が経っていないのが不思議なくらい盛り込まれていて、でも飽きるところがないので、あっという間だった気もします。
無論、サクサク話が進む分、少し展開が唐突なところもあるけれど、観客が自分で補完できる範囲だと思います。

強いて文句を言うなら、主人公であるロベスピエールの前半の出番の少なさでしょうか。主人公を印象付ける前に、ダントンばかりクローズアップされるので、W主人公だったか?と思いました。
あと、新年の演目としては暗いという点もあるけれど、宝塚大劇場も「ポーの一族」なので、どちらにせよ血腥い宝塚の2018年開幕でした。

恐怖政治の指導者ロベスピエール@望海風斗を、主人公としてどう描くのか疑問視していたのですが、純粋な理想家としたのは、まあ宝塚として妥当かと思います。粛清時、意気揚々と好戦的な歌詞を歌いながら、傷ついた顔を晒すところに、生田先生の被虐趣味を感じました。
基本的に、自分の思いの中に沈んでいるキャラクターなので、私は人物に魅力を感じなかったけれど、望海風斗の歌、立ち振る舞い、芝居で魅力を持たせていたと思います。彼の心の動きが分かるので、狂っていくときも見捨てられない気持ちにさせられました。

マリー=アンヌ@真彩季帆は、ヒロイン声と歌唱力に改めて脱帽しました。
途中、少し声が掠れたかなと思う箇所があったけれど、次の場面では調子を取り戻していたのでホッとしました。
彼女の過去の嘆き、悲しみ、そして作中の恋が、本作の悲劇をより深めているけれど、最後に彼女の存在が希望として残っていくのが良かったです。

ダントン@彩風咲奈は、前述通り見せ場が多く、二番手デビュー役として羨ましいと思いました。全体的に「男の言い分」で出来ているようなキャラクターなので、女性の私には共感はできない役でしたけれど、本人の中では一本筋の通っている面白い役だと思います。親友と思っていながら、ロベスピエールを追い詰める言動になる無神経っぷりは嫌なんですけれど、嫌いになれない人物です。

カミーユ@沙央くらまは、少しヘタレだけれど信念は通す可愛い青年系。正直言ってしまえば、沙央くらまでなければいけない役ではなかったと思いますけれど、ダントンから「俺に任せろ」と言われたときの「うん」と言う返事の可愛さですべて許しました。

サン=ジュスト@朝美絢は、期待通りの「革命の大天使」でした。美しい狂信者で、怖かったです。すべてロベスピエールのために行動し、結果として彼を追い詰めていったけれど、この子は最後まで自分たちの間違いが分からなかったのでないかと思います。
役者としては、歌が上手くなっていてとても嬉しかったです。

ロラン夫人@彩凪翔は、ちょっと驚くほど色気のある美女ぶり、且つ気位が高そうな良い演技でした。
最近、芝居での男役による女性役が多いけれど、みんな上手いので文句が言えません(苦笑)。

対するタレーラン@夏美ようは、さすが専科という感じの老獪さ。この激動の時代に、最後まで生き残る強かさがにじみ出ていました。

SUPER VOYAGER!ー希望の海へー

野口先生の「レヴュー・スペクタキュラー」。
客席参加要素はそんなに大げさな内容ではなく、二階まで客席降りがあって華やかでした。

ただ、宝塚のレビューの「お約束」を外した箇所がいくつか散見されて、少し戸惑いました。
特に引っ掛かったのが、「BLIZZARDS」のミュージックビデオ風シーン。場面自体は美男子揃いのアイドル風で楽しかったけれど、録音ですよね? ショーで録音が流れるのは「宝塚をどり」で物議を醸した能楽以来の経験で、衝撃を受けました。舞台で録音歌は聴きたくないので、振り付けを変えて、中央二人がメインで歌唱するなど、上手く折り合い付けて欲しかったです。
男役群舞(アンダルシアに憧れて)も、1シーンとしては面白いんですが、フィナーレの群舞かと言われると、観たかったものとは違うなと思ってしまいます。
新しい挑戦を全くしないのも問題だけれど、ある程度「お約束」は踏襲してこそ、とも思うので、その辺のバランスは今後調整して欲しいです。

最初に苦言を呈してしまったけれど、沙央にさよなら演出があったり、ジブリの名曲をジャズアレンジした映画「ラ・ラ・ランド」風のお洒落な「OCEAN」、サヨナラ公演かと思ってしまうけれど新トップとしての決意を語る「DIARY」など、素敵なシーンもあり、全体的には楽しいショーでした。