妹尾ゆふ子著「翼の帰る処」上下巻
【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
過去視の力を持つ尚書官ヤエトは、左遷先の北嶺で念願の隠居生活を夢見るが、太守である皇女の補佐官に任ぜられ、政界の争いに巻き込まれていく。その上、外敵が北嶺へ侵略し危機に陥る。失われた神の契約を過去視で取り戻して敵を退けたヤエトは、皇女に忠誠を誓う。
歴史好きで隠居願望があり、給料分だけ働こうと思っているのに出世してしまう、三十代男性国家公務員――という主人公ヤエトは、正にファンタジー界のヤン・ウェンリー@銀河英雄伝説。
そして、ワガママ娘かと思いきや、ヤエトに上手く首輪を着けた、立派な「王」の風格がある皇女。
この二人のキャラクターの魅力で、最後まで楽しく読まされました。
登場人物はだいぶ絞っていると思うけれど、政治・歴史物である以上、それなりの人数が登場します。それでも、人物を表すエピソードが盛り込まれているので人となりが掴みやすいし、家名が重視されないことと、高貴な方々は名前を秘しているため肩書で事足りる設定も、上手く作用していると思いました。
キャラクター以外でも、奥行きのある世界観や細やかな伏線など、とても上質なライトノベル(※)だと感じます。
「次巻へ続く」と書いてあってもおかしくないラストと、新書サイズしか刊行されていないのが、若干マイナス要素かな。
※単に「ファンタジー小説」と分類して良いと思うのですが、挿し絵もあるし、ライトノベルなのだろうと思います。