• タグ 『 海外文学 』 の記事

アレクサンドル・デュマ著「モンテ=クリスト伯」(岩波文庫/山内義雄訳)

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
純真な航海士ダンテスは、友人等に陥れられ冤罪で牢獄に繋がれる。牢獄で知り合った神父からモンテ=クリスト島に隠された財宝を託された彼は、14年の後に脱獄し、島の財宝を使って伯爵を名乗るようになる。そして自分を陥れ、名士に成り上がっていた友人等に復讐を果たす。その後、恩人の遺児に希望と財産を残し旅立っていく。

全七巻。
次回宙組本公演の予習として、短縮版ではなく完訳本を選択しました。
長くて飽きるかと思いきや、読み始めたらグイグイ惹き付けられ、さすが「名著」の呼び声高い作品だと思いました。敢えていうなら、フランツ視点の下りは停滞気味なので、もっと短縮しても良いように思いました。

最初の2巻では、ダンテスがいかに陥れられ、そこから脱出するかを描き、主に4巻以降から知力と財力を駆使した華麗な復讐劇が始まります。伯爵の周到な準備と、相手を囲い込み追い詰めていく描写が素晴らしく、どうやって復讐していくのか推理しつつワクワクしながら読み進めました。
反面、終盤に訪れる伯爵の心境の変化は、うまく飲み込めませんでした。
ヴィルフォールへの復讐の過程で、元々は罪のない娘ヴァランティーヌが殺害されるよう仕組んでいたくらいなのに、その復讐の結果で幼い息子エドゥワールが死んだことに動揺するのは、今更では?と思ってしまったのです。
そのくせ、伯爵自身は神父の論文を得て直ぐ罪の意識を昇華させてしまうので、読み手である私の方がなんだか消化不良でした。

個人的に、復讐相手3人の内ヴィルフォールには同情を感じました。一番死人が出たのもこの家ですしね。勿論、彼は保身の為にダンテスを政治犯にしたのですから、最も激しく復讐されるのは致し方なしですが、妻に死刑を宣告する苦悩、ベネデットから不義密通を告発されてその場で認めるある種の潔さなど、興味深い人物でした。
それと、可哀想なのはメルセデス。息子アルベールは生き延びて人間的成長もできたけれど、非のないメルセデスが理不尽な目にあって不幸なまま、未来の救いも期待できず終わってしまうのが可哀想でした。でも、この流れでダンテスと結ばれても幸福はなかったでしょうし、とにかく運の悪い女性だったというしかないのかなぁ。
映画やミュージカルなど、ダンテスがメルセデスと結ばれる結末に改変したモノもありますが、メルセデスの立場で考えたら、婚約者の下に帰る為にこれほどの犠牲が払われたと思うと、心から幸せにはなれないでしょう。

ところで、ヴァランティーヌの偽装死は、明らかに「ロミオとジュリエット」のオマージュですよね。
それだけに、マクシミリアンにヴァランティーヌが生きてる事を教えてやらない伯爵に焦れました。もし彼が1ヶ月の間に自死していたら、伯爵は最後、幸せな船出は出来なかったはず。
伯爵はマクシミリアンたちを救ったかも知れないけれど、それ以上に彼の信頼に救われたのだと私は思います。

ルシアン・ネイハム著「シャドー81」

ハイジャック小説。
と聞いて、乗客として搭乗した飛行機の内部からコクピットを制圧し……という光景を想像していたのですが、完全に裏切られる素晴らしい作品でした。

物語の展開は遅め。けれど、一体なにがどう繋がっているのか分からず、気が付くと延々読み進んでいました。
完全犯罪でも、最後にF4ファントムの件があえて挿入されているのがミソですね。読者が物語の未来に破綻を創造することも自由なのだと受け取りました。

この作品が、ネイハム氏のデビュー作にして最後の作品だという事実が本当に残念です。

ゲイル・キャリガー著「アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う」

【あらすじ】
吸血鬼や人狼等の異界族と共存する19世紀イギリス。異界族を無力化する「魂なき者」である英国貴婦人アレクシアは、ある夜謎のはぐれ吸血鬼に襲われ、思わずパラソルで刺殺してしまったことからある事件に巻き込まれて行く――

面白かった!
ちょうど「ヴァンピール」を遊んでいた頃に、吸血鬼モノを読んでみようかなと思って目星をつけていた中の1冊でした。
ただし、ホラー系は苦手分野だということもあり、その時には読まなかったのです。
その後、あるファンサイトさんでダブルパロディの題材として本作の設定を使った作品を拝見して、やはり面白そうだと思って今回読んでみたのですが、正解でした。

こういう作品を書くのは楽しいだろうなと思わされる、ハーレクイン小説調のドタバタラブコメ。
ストーリーとしては、実は事件はエッセンスで、最大の要素はアレクシアとマコン卿の恋愛成就なんですね。もっと硬派な、或いは耽美な物語だと思っていたので、読み始めた途端にあれ?と思いました。特に中盤以降は、Hシーンが多々あるので電車の中で読むには適していませんでした。
とにかく人外が人間と共存している世界観と、会話のテンポが楽しいです。アレクシアとマコン卿のキャラクター造形が成功しているので、それがこの作品の勝利ポイントじゃないかと。
アレクシアの家庭環境にジェイン・オースティンの「高慢と偏見」の面影を感じていたら、解説でも「オースティンの家族劇とウッドハウスのユーモア」と評されていて納得。でも、読んだ感触はとてもライトノベルでした。

ところで、この作品の最大の謎は「タコ」ではなく、アレクシアの父親と母親がどうして結婚したのか、だと思います。

デイヴィッド・エディングス著「ベルガリアード物語」を読み終えました。

登場人物の誰もが「予言」に動かされているためか、「キャラクター設定」がはっきりしたお話でした。
予定調和という感じで丸く収まるので、大きく感動するところはありませんでしたが、最初は鼻持ちならない小娘だったセ・ネドラが、ガリオンの辿った旅路を逆に進軍し、成長していくのが良かったです。
続編があるためかも知れませんが、ちょっとエピソードが放置気味なのが気になりました。ガリオンの頭の中の「声」も、正体不明のままですよね。
5巻通して一番心に残ったのは、沼地に住む魔女ヴォルダイの話でした。この世界の魔術はこんな奇跡まで起こせてしまうんですね。正しい行為だったかどうか分からない尻切れ感が、この件に関しては良い余韻に感じられました。

実は、日本語訳はときどき解釈に迷うところがあったので、原著が気になります。特に1巻冒頭でポルガラの容姿が説明されたとき、とても美女とは思えなかったので、途中から混乱したのです。果たして、英語ではどういう表現だったのかしら。
読み終えてから気付いたのですが、途中で訳者が2度交代しているのですね。
2〜3巻の時の訳が個人的には読み易かったです。

デイヴィッド・エディングス著「ベルガリアード物語1巻 予言の守護者」

アメリカのファンタジー小説。
世界観がしっかり構築された正統派の異世界ファンタジーで、「指輪物語」を彷彿とさせられました。解説でも「流れを汲んでいる」と述べられていて納得です。
なかなか読み止まらず、一気に読んでしまいました。旅に出てからの、追っていると同時に追われている感が面白かったです。
色々な土地や人との出逢いに、とても丁寧に細かい生活まで描写されていて、旅物語の醍醐味が詰まっています。

プロローグに神話(アーロンの書)があり、登場人物たちの正体には直ぐ検討が付きました。
読者の方が、主人公よりも世界に対して知識を持っている、ちょっと変わった構図ですね。
ただ、ガリオンは宿命を持つ主人公として無知過ぎないでしょうか?
普通の少年として育てるのは結構だけれど、いつか自分の責を果たさねばならないのなら、ポルは、その時に備えてもう少し彼を教育しておくべきだったと思うのですが……。ガリオンの無知は、必要な無知なのかな。

キャラクターの中では、シルクが気に入りました。口八丁のハッタリで渡り歩く抜け目ない男。人生を楽しんでいるような、諦めているような、複雑なところに人間味が溢れていて見事だと思います。
また、各国の王たちが、有能ではなくても決して無能ではないという匙加減が良かったです。