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ネタがなくて困ったときの再録頼り。ということで、今回も2009年にエイプリルフール限定公開したBASTARD!!サイトより再録。
PS版ゲーム「虚ろなる神々の器」3章ネタバレ有り。


 割って入った大男の姿に、あっとマカパインは叫び掛け、咄嗟にその声を飲み込んだ。口が開く事までは止められなかったが、皆の注視は氷のコロシアムにあり、動揺を悟った者はなかった。
 あれは鬼忍将である。
 しかし思い出したのはそれでなかった。
 あの日、D・Sの魔術に吹き飛ばされて会った大男――!
 印象深い巨体の背を引金に、連鎖的に前後の記憶が蘇る。それは糸を手繰り寄せるよりも早く、容易い仕事であった。
 そうして確かに自身を取り戻したマカパインが、この世界に目覚めてからの己を振り返ると、先の戦いで得た二つの指針――ヒトを超えた力と対峙し思い知らされた自身の無力。初めて気付いた守るべき世界の存在――をまた見失ったために、随分遠回りしていた愚かさを自嘲するしかない。
 ただ、主君の姿で現われた「至高王」に、魔戦将軍としての使命と敬愛を呼び起こされながらも従うことが出来なかったのは、封印された記憶が僅かなりとも抵抗した結果だろう。或いは、記憶の中に残る彼が、もう一度警告してくれていたのかも知れない。

 そして初めて、マカパインはあれが四天王の一人、忍者マスターであることを知った。


マカピーは、ガラの正体をいつ知ったのかは私の長年の疑問でした。しかし、このSSを書き上げた後にコミックス9巻を買って再読し、ガラに連れられてネイと会った時ではないか?と気付きました。

いまさら宙組公演「記者と皇帝」SS。


 その日、ブライアン・オニールが帰宅すると、オニール家は名士の屋敷と思えぬ混乱の最中にあった。屋敷中の荷物を引っくり返しているような物音と、時折、金糸雀を絞め殺すような甲高い悲鳴と啜り泣きがする。まるで珍獣小屋の有様だった。
 女中をつかまえて何事か確認していたブルース・レッドマンに視線を向けると、よく心得た部下は直ぐに異変の説明を始めた。
「お嬢さまのお気に入りの役者が急死したそうで」
 その時、口上を遮る騒々しい足音が階段を駆け下りて来た。視線を上げたブライアンは、そこにドレスの裾を捲り上た妹、クリスティの姿を確認した。
「レッドマン、今直ぐニューヨーク行き列車のチケットを用意して頂戴!」
「はい、お嬢さま」
 レッドマンが慇懃に頭を下げる。
 だが、ブライアンは緩く首を振って、その命令を撤回させた。
「レッドマン、クリスティに必要なのはチケットでなく鎮静剤だ」
 彼の喋り方はいつも断定だった。それは、彼が既に決定した事柄を口にしているためだ。
「畏まりました、ブライアンさま」
「お兄さま!」
 妹に関しては、少々甘やかし過ぎたと思っている。移民の男に熱を上げるなど、オニール家の令嬢に相応しい振舞いではない。
「お前が出席する葬儀は別にある」
 先程、州会議場で受け取った電報をクリスティに差し出した。それは、西海岸でも指折りの名家キング家の家長が逝去したことの知らせだった。
 クリスティの成すべきことは、まず葬儀に出席すること、そして留学先から戻ってくるアーサー・キング・ジュニアと結婚することだ。
「務めを果たしなさい」
 特権階級に産まれた者は高潔でなければならない。それが、ブライアンの信念だった。


唯の悪役ではないブライアンというキャラに、色々妄想を刺激された舞台でした。
彼は、ノブレス・オブリージュを知る人だと思います。ただ、厳格過ぎて、他人に理解されないタイプじゃないかな。

「ヴァレンチノ」と「記者と皇帝」は本当は時代設定が合わない筈ですが、作中の台詞でリンクさせてくれていたのが嬉しかったので、こういうネタになりました。

2009年にエイプリルフール限定公開したBASTARD!!サイトより再録。
PS版ゲーム「虚ろなる神々の器」2章ネタバレ有り。


 生命を投げ打つことは、彼の信念に反しているはずだ。
 人為を良く知る間柄ではないが、少なくとも共に行動していた頃の彼は、生きることに貪欲で、その執着によって二度見捨てられたヨルグすら感嘆するほどだった。
 そのマカパインが、今、D・Sに己の首を差し出している。
 彼を変えたのは、蘇った記憶の一部だろうか、とヨルグは考える。
 ヨルグ自身も、ア=イアン=メイデの侍としての誇りを思い出した今は、あの時と異なる信念を持っている。
 ――友の為ならば、命を賭けても良い。例え結果が死であったとしても、友の道の礎と成るならば悔いはない。
 それが、侍ヨルグの取り戻した信念であり、既に一度、命を以て道を拓いたことの理由であった。
 だが、彼が命を賭けるのはなんの為だろう。
 マカパインは孤高である。
 ならば、戦いの果てに誇りある死を望むのは、矜持だろうか。D・Sの打倒を誓った妖縛士の誇りを守るために、彼は死のうと言うのか。
「気障なコタァいい! 仲間としてついてこい!」
 結局、妖縛士に死が与えられることはなかった。仲間たちの手荒い歓迎を経て、マカパインは再びヨルグと肩を並べる。
 怜悧な横顔をどこか新鮮な気持ちで見下ろしていると、視線に気付いたマカパインが左目だけでヨルグを見上げた。口と異なり率直な彼の眼差しが問うのに促され、問う。
「誇りに命を掛けたわけでない」
 彼は否定してこう答えた。
「これは私のけじめだ」
 けじめと彼が言ったものをヨルグが理解するならば、それはやはり誇りに他ならない。だがそれは、侍たちが侍であることに誇りを抱くのと異なり、妖縛士としてでないマカパイン個人の誇りであるのかも知れなかった。


最初の2行で書きたいことが終わってるお話。
ヨルグとマカパインについては、2012年3月1日記事に載せたSSと本SSの2編を書いたのですが、今回再録に当たって読み返してみたら、2編共マカパインの「命大事に」精神に対する話でした。

2009年にエイプリルフール限定公開したBASTARD!!サイトより、もう時効と言うことで収録。
PS版ゲーム「虚ろなる神々の器」1章より。


 周囲は次第に道幅を狭め、指示通り封印された海岸線へ続く渓谷の路へ向かっていることは間違いないようだった。
 それを確認したヨルグは、前を進む若い男の背に問いかける。
「あの男の話を飲むのか?」
 問い掛けに、男――マカパインが振り向いた。沈黙を続けていたヨルグに、まさか己の意志があるとは想像もしていなかったのだろう。切れ長の瞳が僅かだが見開かれていた。
「生きる為に、他になにが出来る」
 この世で共に寄る辺無い身として目覚めて以来、二人が手を取り合ったのも生き抜くためであった。
 もとより、ヨルグに手段の好悪はない。
 この地を治めるのは、鬼忍将と名乗る巨体の男である。将が今の彼等では到底適わぬ強さを持っている以上、それにおもねって後ろ盾を得るのは、生き抜く為の選択として間違いでない。
 しかし、マカパインが頻りに言う妖縛士の誇りはどうなるのか。
「誇りを守るために命を捨ててどうする」
 騎士であるまいに、とマカパインが嗤った。
 その刹那、ヨルグは反射的に口を開いたが、後に続ける言葉が見当たらず、そのまま口を閉じた。
 彼の主張に間違いはない。己の生命を守るためならば、どんな非道も出来るのが人間だ。そしてヨルグも、そんな人間の一人だった。
 命があってこその誇り、生き様である。
 だからこそ、ヨルグの胸中に疑問が鮮明に残った。
 言おうとしたのは、反論だった。


ヨルグとマカパインの皮肉な組み合わせが大好きです。初プレイ時は、なんでこの2人が組んでるんだ、と物凄い勢いで突っ込みました。
それにしても、記憶がない時期のヨルグは主体性がないですね!

突然思い付いて一発書きしたSS。こういう小話は勢いが大事なので、推敲はしていません。


その立て札は、教室塔の入り口で学生たちを待ち構えていた。

義理チョコ、友チョコの授受を禁ず――

「どういうこと?」
 と思わず呟いたのは、両手に提げた袋にラッピングした小箱を山程入れて登場したベーギュウム教室教室長、アーデリカである。
 ちなみにこの袋は、行きは配布する菓子を、帰りは受け取った菓子を持ち帰るのに必須のアイテムである。
「こういうものを立てて驚かせてくるのは、普段ならフォウル様ですけど……」
 イベント事を好む最高位の騎士が、水を差す指示を出すはずがない。
「こういうことがお嫌いそうなカイ教師じゃない?」
 そう思うのは彼の教師の一面しか知らぬ者である。
 それに、彼なら範囲を限定せず、すべてのチョコを禁止するだろう。
「立て札ってところが、劉教師っぽい気もします!」
 しかし、こうした行事にわざわざ介入するタイプではなかった。
「教師陣より、ああいう人が怪しいと思いますけど」
 と、最初から疑わしい者を見る眼でシェリアが指し示したのはナディルヤードである。
 ド近眼の彼は、わざわざ先頭に行って立て札を確認した挙げ句、一ヵ月後の返礼に悩まされずに済む!と歓声をあげたせいで、女性たちから袋叩きにされているところだった。
 本音を隠さず口にするのは、人付き合いにおいては美徳とばかり言えない。
「犯人探しより、皆が持ってきているチョコレートをどうするかが問題じゃないか?」
 話を少し前進させたのは、ルクティ教室教室長イグゼフォム、通称イクスだった。
 この立て札に従うと、贈り先を失った菓子が大量に少女たちの手に残る可能性がある。
 数瞬の間の後、アーデリカはふと気付いて言った。
「よく考えたら、私は義理クッキーと友マカロンだから問題ないわね」
 ならばと、恋人とその親友用にチョコレートを持参したセララは無邪気な笑みと共に言った。
「じゃ、セララのは両方本命チョコってことで、良いよね!」


では、これから平日夜の菓子作りです……