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ベニー松山著「司星者セインー輝きを戴く者ー」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
魔導王ジノンの遺産を探す女盗賊リリィは、魔女王アグナスの死霊軍勢と鉢合わせ危ういところを剣士フォウに助けられる。森を逃げる二人は、記憶を持たない美少年セインと出逢う。この少年こそ、ジノンが遺した遺産・人造の救世主であった。

ベニー松山氏が書かれたウィザードリィ小説「風よ。龍に届いているか」やアルティマニアシリーズでの中編は非常に好きでしたが、完全なオリジナル作品は初めて読みます。
シリーズ第1巻ということで、はっきり言ってしまえばキャラクターの顔見せに終始されていました。
そのため、バトル描写や、気味の悪い敵の描写に関しては感心したものの、単体の小説としては評価不能でした。

文としては、1つずつの事象に細やかな設定を施し、煌びやかな文章力、圧倒的な語彙で描写を重ねる、今となっては古臭いライトノベルの文体です。その上、フォウは比類なき剣士だったり、リリィには神懸かり的な直感力があったり、と笑ってしまうくらい「中二病」なのですが、よく考えたらベニー松山氏の作品はだいたいそういう作りで、そこが面白いのでした。
しかし、今回はオリジナル作品のためか、設定に関する語りが常以上に多く、結果として物語の展開が遅くなっているので、上記のポイントがクドさに転じてしまっていたと思います。
結局、この作者は何らかの世界とキャラクター観を使った小説の方がハマるのだろうと思います。

個人的に一番の問題点は、本来は主役だろうフォウの人物背景がまったく明かされていないこと。どの視点で話を読めば良いのか、少し悩みます。本作は頻繁に視点が変わるのですが、リリィを単独主人公として全体的に組み立て直した方が、話に入り込み易い気がしました。
セインの正体は、読者には最初から分かっていた感があるけれど、他者の祈り=信仰に対して力を発揮するというのは、神が居るのではなく、人が神を作るという解釈が出来て面白いと思いました。
フォウが振るう「意思ある剣」ロストラムは、シャルティエ@TODを彷彿とさせられるキャラクターで、なんとなく憎めなかったものの、感情を曝け出さないフォウやセインより、敵側であるズアグの方に感情移入してしまいました。

田中ロミオ著「人類は衰退しました」全9巻
https://www.marv.jp/special/jintai/

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
人類は衰退し、地球は、面白可笑しく生きることが大好きな不思議生物「妖精さん」が支配する土地になり、人間と妖精さんたちは、非日常な日常を過ごしている。

イラストがとてもリリカルで可愛く、根は善良だけれどお気楽で無能な主人公の日常系かと思いきや……というお話。
ということで、途中までは、不思議生物な妖精さんと、それに振り回されたり掌の上で巧いこと転がしたりする「私」の非日常な日常小説だと思って読んでいたので、最終巻で怒濤のSF展開に唖然としました。
単品では、無人島で鬱病妖精さんたちの国の女王になってしまうエピソードが面白かったです。

全体的には「AURA」と同じ作者だと思えないくらいカラーが違う作品で、面白いものだと思いました。と言いつつ、5巻で明かされる「私」が学校で孤立していた時期の描写は、やっぱり「AURA」の作者だったと思ったのですが。

なお、最終巻(2014年6月発行)の後書きで、田中芳樹先生の遅筆っぷりを揶揄しているのですが、前月(2014年5月)に「アルスラーン戦記」14巻が出ているからですね。
「アルスラーン戦記」13巻と14巻の間が6年。「人類は衰退しました」8巻と9巻の間が1年。うん、確かに芳樹先生は大物です。

桜坂洋著「All You Need Is Kill」

【あらすじ】
初陣で戦死したキリヤ・ケイジは、次の瞬間、出撃前日に戻っていた。以来、出撃と戦死を繰り返すループに巻き込まれたキリヤは、絶望的な戦いに勝利するため自らの精神を鍛えていく――

映画未見。
ストーリーは、かなり改変されているみたいですね。

一言でまとめると、非常にゲーム的な小説でした。
PSゲーム「高機動幻想ガンパレード・マーチ」から影響を受けて書き上げた作品だと聞いて、納得。人類の敵とパワードスーツを着た兵士が戦っていて、戦況は人類劣勢という世界観までは特殊でないけれど、そこにループが関わっている上、リタの言動が芝村舞を彷彿とさせましたし、一人でも戦う覚悟を持った人類の救世主たる二人は実に「芝村的」でした。ヨナバルには、滝川の「アルガナ勲章」イベントを思わせる下りもありましたね。
なお、「ガンパレード・マーチ」の影響は作者が明言していたそうですし、その結果できた作品が面白ければ構わないと私は思います。

ループ物の場合「なぜループするのか」という設定作りがポイントだと思います。
その設定が、単なる手段としての設定に終わらず、物語全体の結末に繋がっている点が良かったです。
特に、この作品におけるループ設定の肝は、敵もループしている(正確には、敵の方がループしていて、主人公とヒロインはそれに便乗している)という点だと思います。
それゆえ、次の周では敵も違う行動を取ってくる、というところがなかなか新鮮でした。

渡航著「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」1巻
http://www.gagaga-lululu.jp/gagaga/oregairu/

【あらすじ】
高二病を拗らせ「ぼっち」を堪能する男子高校生・八幡は、生活指導として生徒間の悩みを解決する「奉仕部」に入部させられる。部長である学年一の美少女・雪乃を始めとする生徒達と関わりながら、謳歌しない青春の日々を過ごす。

通称「俺がいる」。
スペックは割と高いのに、友達がおらずスクールカースト底辺の主人公という設定から、同じガガガ文庫の「AURA」を思い出しましたが、方向性は逆。「AURA」は主人公が群れに入ろうとしようとしているのに対し、「俺がいる」は現在進行形で「高二病」を煩っているせいで、群れることを悪とし、ぼっちを至高とする思想を持っている点が面白いです。
と言っても、八幡が最初からぼっちを望んで貫いているわけではなく、周囲から省かれている内に、ぼっちな自分を肯定するという術を見出しただけなのは分かります。
ただ、友達を作れそうな状況でも、敢えてぼっちを貫く八幡の強さには感心します。期待しないことで身を守るという選択肢は、現代的ですね。後ろ向きだけれど、非常に力強く、結構共感します。
それでもエピソードは青春小説的で、斜に構えている割になかなか熱い要素もあるのでした。

しかし、これは現代高校生の話の筈なのに、ネタが若干古いので、作者の年代が分かるな、と思いました。

石和仙衣著「ユニコーンの恋文(ラブレター)」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
魔法の世界で、現実世界に連れ出してくれる花婿を待つ最後の乙女カタリアは、迷い込んだ青年エルダーに拒絶されたことを切っ掛けに、魔法の世界を飛び出し、自分で自分の物語を紡ぎ、幸せを見付けて行く。

カタリアとエルダーの恋物語であることは間違いないだろうと最初から確信していたものの、どうやってその結末に持ち込むのか、序章とどう繋がるのかと考えながら、最後まで読まされました。
おとぎ話風の魔法世界「夢の平原」に対し、現実世界は、意外と近代的な社会だったのが面白かったです。もっとも、悪意ある人物がいないので、実際にはおとぎ話の続きのような感じでした。

恋愛小説の面白さは、障害をいかに美味く設定するかだと思います。
一人は魔法の世界の住人、一人は現実世界の住人で、心を失っているという設定はそれなりに良かったと思うけど、エルダーが心を取り戻した中盤以降は、単なるすれ違いと2人の自己評価の低さに、もどかしさよりイライラを感じた面が大きいです。
エルダーの性格自体、心を取り戻す前のツンデレ的な方が好きでした(笑)。

いささか展開のためのご都合設定に感じる箇所や、ユニコーン自身に自分の正体を語らせてしまうなど、見せかたが弱いと感じる箇所もありましたが、いい「少女小説」だったと思います。