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夏海公司著「なれる!SE 2週間でわかる? SE入門」
http://nareru-se.dengeki.com

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
新社会人・桜坂工兵はSEとして働き始めるが、完徹残業、手当の付かない休日出勤、「自分でググれ」な教育係に辞職を考える。だが入社2日目にして担当させられた仕事でシステムを作り上げる快感を知り、SEを続ける覚悟を決める。

お話自体はとてもアッサリ。
一応、作者自身がネットワーク系SEとして勤務経験があるということで、作中の技術説明はちゃんとしています。私は文系なので、半分くらいは頭に入りませんでしたが。
私以上に素人の工兵が、徹夜でググっただけでコンフィグを作るだけの知識を身につけるなど、ややご都合的な面もありますけれど、いわゆる「お仕事漫画」のライトノベル版として面白かったです。
ただ、どの層に向けての作品なのかと言うと、やはりSE経験者を中心としたIT業界人が「あるある」的に読む本だと思いました。

大楽絢太著「七人の武器屋 レジェンド・オブ・ビギナーズ!」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
人生の目的も金もないマーカスは、武器屋の新オーナー募集に応募した。集まった7人で武器屋経営を始めるも、在庫はカラな上、他店は超格安やプレミア付きをウリにした強豪揃い。しかし7人の個性を生かし独自の店を作り上げるうちに、マーカスも店を居場所として自らの夢を抱くようになる。

第17回富士見ファンタジア長編小説大賞佳作。

ファンタジー世界の武器屋経営ライトノベル。
と言っても「狼と香辛料」が描いたような、しっかりした経済論に基づいたシビアな経営話ではありません。コメディ調且つ7人のオーナーが全員10代ということもあり、子供の「お店屋さんごっこ」のノリと言った方が本書を表しています。
なんせ、最後まで読み終わっても、本作の世界における貨幣価値が私には分からなかったくらいです(※)。
しかし、その軽さと若さ故の熱量で、とても楽しく読めました。

タイトル通り、武器屋を始めた7人のキャラクターが立っています。
面白いことに、美少女はいても、「萌え」キャラクターはいません。刊行年である平成17年は、ちょうど、「萌え」が流行語大賞になった年ですが、執筆は1年以上前になるので、いいタイミングだったんですね。

武器屋なのに、最後はやはり自分たちで戦ってしまって、しかも強いのですが、その辺はご愛嬌かな。
作品に込められたメッセージも気持ち良く、前向きに、一歩踏み出してみたくなりました。

(※)余談
基本は1ドルク=5円かな、と思います。
ただ、「月に1万もあれば、ゼイタクしない限り、毎日しっかり三食食べられる」(P.27)と書かれているのですが、別のページにて、ステーキハウスのビフテキ(フェア価格)300ドルク、コーヒー1杯50ドルクという金額が明記されているので、その後しばらく引っ掛かってしまったのでした。
だって1万ドルクを1か月=30日×3食で割ると、1食111ドルクで、ビフテキなんて食べられないんですよね。それともビフテキは贅沢の部類なのか……。

有間カオル著「魔法使いのハーブティー」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
親を亡くし、親戚をたらい回しにされている少女・勇希は、夏休みを会ったこともない伯父の家で、カフェの手伝いをして過ごすことになった。様々な客のトラブルを解決していく穏やかな伯父の元で、勇希は自分を肯定し、居場所を見出だしていく。

大人と子供の悩みを“少し”解決するハートフルな作品。そんなに数は読んでいないのに、「メディアワークス文庫らしい作品」という印象を受けました。
タイトルに反して、「魔法」は出てきません。店長が言う「読心魔法」も、実際にあるというより、単にそう感じ取ったというだけだと思います。でも、確かに「魔法」のような効果を生むハーブの知識の数々が面白いです。
実際にハーブティーを飲みたくなります。

勇希は時折卑屈過ぎて、読んでいて気落ちするときもありましたが、最後には自分の意志で自分の運命を決め、それをハッキリと口にできる少女に成長したので、ホッとしました。
店長はいい人だけど、40歳になる男が「ふにゃっ」と笑うのは想像すると結構しんどいですね。この表現に限らず、本作は勇希の視点で纏められているためか、全体的に描写は幼い印象です。
店を訪れるキャラクターは、マダム以外は全員最悪の印象からスタートして、次第に素顔が明らかになって受け入れていけるのが面白いです。

全体的には店長とハーブの優しさに包まれるお話なのですが、最終話に登場する伯父だけはまったく救いようのない人物に描かれていて、作品の味とそぐわない気がしました。

葵せきな著「碧陽学園生徒会議事録 生徒会の一存」

【あらすじ】
人気投票で選ばれた美少女揃いの生徒会に、特待枠で入り込んだ唯一の男子生徒・杉崎鍵。生徒会メンバーをハーレム要員と公言する杉崎と美少女たちが議論したり遊んだりしている日々。
http://www.fujimishobo.co.jp/sp/200904seitokai/

ほぼ全編通して、5人の登場人物が駄弁っているだけの短編連作。
最初と終盤に、今後の伏線のような謎のエピソードが挿入されているのですが、この巻ではなにも起こりません。もしかすると、2巻以降でもなにも起こらないのかもしれない。そういう感じです。

作者による「4コマ小説」という説明は、確かに「日常系」と呼ばれる漫画のスタイルをそのまま小説の体裁に落とし込んだ感じで、なるほどと頷きました。
ギャグ小説というには、声に出して笑うほど面白い印象は受けなかったけれど、軽く読んで時間潰しになるという意味では正しく「ライトノベル」な作品だと思いました。

ギャルゲーのハーレムEDを望む主人公・杉崎鍵の人となりは、結構好きかも知れません。
2話「怪談する生徒会」は会長を揶揄いつつ、杉崎が巧く収めるオチが良かったです。杉崎の現在の人格が形成されるに至った過去が簡単に説明される最終話「振り返る生徒会」も、同様。逆に、3話の「放送する生徒会」などは、ハイテンションすぎるノリについていけませんでした。この辺の好みは、年齢のせいかしら。

岩井恭平著「サマーウォーズ」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
憧れの先輩・夏希に頼まれ田舎に同行した健二。ところが、その夜メールに届いた謎の暗号文を解いて返信したところ、送信主であるハッキングAI「ラブマシーン」が全世界で活用されているネットワークOZを乗っ取ってしまった。人工衛星を原子炉に落とそうとするラブマシーンを倒すため、健二は夏希と親戚一同と共に立ち上がりOZを奪い返す。

とてもしっかりした「ノベライズ」だと思います。
といっても原作アニメ映画は見ていないのですが、コマ割りが想像できるような描写でした。まぁ、逆に描写の細かさがうるさく感じたところもありますが、全体的には分かりやすくて良かったです。
もっとも、OZと現実が二重写しに感じられる部分は、映像としては良くても、実際は端末の中の画面でしかないと思うと、演出過多のような気もするかな。

主人公・健二は、情けないところもあるけれど、「数学に強い」という唯一の武器を最後までちゃんと使って戦い続けるので、次第に応援したくなります。
逆に、ヒロインである夏希は、少し身勝手だし、恋人がいるふりを本気でするつもりだとしたら健二に事情を説明をせず連れてくるのも理解できず、魅力を感じられませんでした。
大おばあちゃん・栄は中盤で亡くなってしまうんですね。ちょっと衝撃的でした。
キング・カズマと、彼を操る佳主馬少年は、あれこれ言っては失礼なくらい格好良かったです。

内容的には、バーチャル世界を舞台にAIと対決するお話ながら、人間同士の生の触れ合いが大切だと語っているんですね。未来世界だけれど、どこか昭和の雰囲気もあり、暖かさを感じました。