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【1幕6場 黙示録の四騎士のセット】
「黙示録の四騎士」撮影現場で、ルディはジュリオ役を勝ち取る。

戸が開くと、八百屋舞台で踊るジュリオ役ダンサーと、その相手役ベアトリスがタンゴを踊るセットが登場。
面白いアプローチだ、と思ったのがこのダンサーです。
監督から「あんな男しかいないのか」と罵倒され、ベアトリスをリフトすれば落としてしまう駄目ダンサーですが、彼単体の踊る姿を見ると、決して「ダンスが下手」な演技はしていないのです。むしろ、舞台の中央で生き生きと機敏に踊っています。
ただ、どうしようもなく自分に酔っているのですね(笑)。
ベアトリスが不満を抱きながら付き合っているのに、独り善がりなリードで心の距離がどんどん開いて行くのが目に見えて分かります。足を振り過ぎて彼女のお尻を蹴ってしまう──しかも気付いていないらしい、と言う小芝居がDVDの片隅に映っていたのには爆笑しました。
役を降ろされてしまった後は、カメラが上手側を映さないので、スタッフたちに詰め寄ったり、ポーズを決めてアピールする姿が観られず残念です。逆に、観劇中は上手を凝視していたため気付かなかった下手の小芝居が細かく映っていて、舞台とDVDで2度楽しめました。

ルディが鞭を鳴らして舞台に駆け上がり、ダンサーを追い払ってベアトリスの手を取る流れは純粋に格好良いです。
一方、ベアトリスも態度を急変させて、ルディへのアピール全開で色気を漂わせながら踊るのが面白いです。「芝居」として踊れる良い娘役ですね。

監督からは、ジューンへの信頼の強さが伺えます。
ルディのことも、ジューンが推す候補だから、と最初から受け入れる面があったような気がします。それが、実際にジュリオとして破綻のない役者だったので本気で気に入ったのでは。
ジュリオを主役に書き直すと言う話になって、「今日中に書き直します!」と言い切るジューンは凄いですね。創作意欲が激しく刺激されて、筆が走る状態なのでしょう。作者として、本気で入れ込んでいるからこその断言だな、と感じます。

【1幕7場 ジョージ・ウルマンのオフィス】
一躍大スターとなったルディは、次作「椿姫」に挑む。自信が持てないルディだが、ジューンに励まされセットへ向かう。

短い暗転の間に、髪型をオールバックに変更して登場するジョージ。
無理矢理撫で付けているようで、後ろが「ひよこ」のようになっているのが可愛いです。DVDの回は、割と纏まってる方でしょうか。

この時は「(ルディの)お母さんだったの?」と揶揄され否定するジューンですが、彼女がルディの擬似「母親」として接することを選んだのは、事実だと思います。
衣装も前場より少し落ち着いているし、自信なさげに猫背で現れるルディを励ます姿は、正に授業参観の母親。
意識的ではなかったかも知れませんが、男と女として対峙することを避けて、マザコンのルディにとって居心地が良く、受け入れられやすいポジションを選んでいたのだと思います。
擬似父親ジョージと、擬似母親ジューン、そして愛すべき息子のルディと言う3人で居続けられたなら、それも良かったのでしょうが──。

次回公演での退団者が発表され、惜し過ぎるメンバーに涙しつつ前回からの続きです。
しかし、じわじわとボディブローのように来る退団者発表ですな……。

【1幕3場 メトロ撮影所の入口】
エキストラに登録したルディだったが、なかなか採用してもらえない。

配役係は、まだ男役の声になっていないと思ったら、研究生2年目なのですね。蒼羽りくに似た面長の宝塚的美人の顔立ちなので、是非技術を磨いて頂きたいです。
観劇時は、猛烈なアピールをするエキストラ希望者たちに注目していましたが、DVDではルディの周辺がよく分かります。体は大きいのに気が弱いらしい女エキストラ(風馬翔の女装)に場所を譲ってあげたり、女性の役の募集になるとアピールするように発破をかけている姿が見られました。女性に優しい辺りが、とてもルディらしいです。
細かい所では、霊魂役の時にルディも演技でアピールして、それを見ていたエキストラが次に老人を演って役を獲っていたのですね。ルディ、発想は良かったのに運がないなぁ。

【1幕4場 ジューン・マシスのバンガロー】
空腹に耐えかねたルディは、ある家のオレンジの枝を手折り、脚本家ジューンと出会う。ジューンは、ルディが制作中の映画「黙示録の四騎士」のジュリオ役に必要な条件を備えている事に気付き、カメラテストを受けるよう勧める。

前場の暗転時の音楽がそのままラジオ放送になる見事な繋ぎ。単に繋ぎというだけでなく、ジューンが物を書く時に音楽を聴くタイプだと言うことが、後の伏線になっているのが素晴らしいと思います。
DVDのアップ映像で観ていると、ルディの下手な嘘を聞いて、ジューンの口元がむずむずしてるのが面白いです。
ジューンは、宝塚歌劇では珍しい年上のヒロインですが、大人の女性としてちゃんと魅力的に表現されていて好感が持てます。年上の余裕を吹かしながら、ルディを可愛く思って見守っている暖かみがあり、更に恋してちょっぴり浮かれる可憐さが絶妙の塩梅ですね。物書きの端くれとしては、ルディと言う存在にインスパイアされると直ぐタイプライターに向かう辺りに「これぞ物書き!」とニヤリとしました。
一人残されて、ルディがタイプライターに興味を示すシーンは、東京では部屋の中を見回す演技が付け加えられて、より自然になっていました。地味な変更ですけれど、これによって好奇心旺盛でやんちゃな感じがより強くなっていたと思います。

【1幕5場 ジョージ・ウルマンのオフィス】
ジューンからメトロ映画の宣伝課長ジョージを紹介されたルディは、ルドルフ・ヴァレンチノと言う芸名を与えられ、新人俳優に仕立て上げられる。

冒頭は、ジョージが電話で一人芝居。この舞台では、電話口で一人芝居するシーンが何度もあり、しかもそれを演じる全員が巧いので感心しました。ここの場合、ジョージの反応から電話口の向こうのジューンが浮かれてる感じが透けて見えて、楽しくなってきます。
ジョージからジューンへの愛情は、ジューンが巧みに躱してしまうので、コメディ扱いになっていますけれど、この作品の重要ポイントだと思います。つまり、ジョージという最上級の「いい男」が惚れ込んでいる相手だ、と言う理由で、この先の展開でジューンがナターシャに破れても、彼女が「いい女」であり続けるのです。
ちなみに、ジョージは後にジューンを「お母さん」と揶揄するけれど、彼が「ルドルフ・ヴァレンチノ」の名付け親だと言うことを考えると、ルディにとっては父親みたいなものですよね。
ここでは生着替えに加えて髪型の変更もあります。音楽に合わせ進めないといけないわけですが、間に合わなかったらどうなるのでしょう? 生オケなら安心なのですけれどね。そして、変身させられる時の「生まれも育ちも消し去ってしまう」と言うフレーズが、実はナターシャとルディの類似性を示唆していたことに気付きました。
演出に一つだけ文句をつけるとしたら、「開けゴマ」を言い終わってから扉を開けて欲しいなぁと思います。

本日は「ヴァレンチノ」東京振替公演千秋楽。
この奇跡のような公演の思い出として、久し振りにDVD感想を綴りたいと思います。

【序 クリーヴランド号甲板】
1913年12月、イタリアからの移民船に1人の青年が乗っていた。彼、ロドルフォ(ルディ)は自由の女神に誓う。いつの日かオレンジ農園を手に入れることを──

研究生20年目の生徒が、10代のきらきらしい少年を演じて、違和感なく可愛い──と思うのはファンの欲目でしょうか。
でも、このシーンでオレンジを見つめる瞳が確かに希望に輝いているから、ここから始まる約2時間の物語に深い哀しみが生じるのだと思います。

移民たちはイタリア語で演技しているため、何を話しているか正確には分からないのですが、強い感情は伝わってきます。そこが、新大陸に様々な望みを託してやって来た移民らしい説得力のある芝居になっていると感じます。
スポットライトがないまま、ルディも秘かに登場。初日は、少年にぶつかるまでルディに気付きませんでしたが、DVDだとちゃんとカメラが追い掛けてくれるので、直ぐ分かりますね。
その後ろの人々も小芝居をしているのですが、劇場では後方席だったので良く観えなかったのが残念。DVDも、残念ながら薄暗い中の群衆芝居なので後方のメンバーは確認できませんでした。

【1幕1場 マキシム】
3年後、ルディはN.Y.のクラブ「マキシム」でダンサーになっていた。しかしマフィアのボス、デ・ソウルの情婦と関係を持ったことで命を狙われ、N.Y.から逃亡する。

ほんの数分前まで移民だったメンバーが、ダンスホールの男女として登場する早替わりに毎回驚きます。
ダンスのお相手が、踊りの下手なマダムから元踊り子ビアンカに替わると、ルディのダンスもぐっと良く観えるのが面白いです。ビアンカの魅せてくれるダンスでは、リフトで持ち上げられた後、空中で止まって戻ってくると言う振り付けが凄く好きで、何度も観たい!と思っていたのでDVDで早速リピートしています。
東京だと1場は何度も笑いが生じるので、東の観客は「笑いの沸点」が低いのかと思っていましたが、DVDで観ると演技の指向自体も違う気がします。DVD(梅田)と東京の最大の違いは、デ・ソウルが格好良さを薄めにして、ヘタレ気味になったことでしょうか。
なお、デ・ソウルが登場して、慌てたビアンカがルディをマダムに返すときの台詞は「オバさん、出番だよ!」と収録されていますが、東京では「オバさん、匿って!」とより分かりやすくなってました。

【1幕2場 カリフォルニア〜ハリウッド】
カリフォルニアへ逃れて職を探すルディは、車掌からハリウッドのエキストラを薦められる。

ここは、大空祐飛主演作品では初めてのDVD収録における楽曲差し替えシーンです。と言うわけで、DVDを観る時は、iTunes配信・宙組「ヴァレンチノ」で「ウエスト・コースト」冒頭30秒を聞いて脳内で合成しなければなりません。
差し替え部分は、リズムが刻まれる中、音階無しに歌詞が掛け声として入っています。振り付けが浮いてしまって、かなり間抜けな状態です。
iTunes配信で本来の楽曲が聴けるだけ、有難いですけれどね。
このシーンでルデイの舞台上の衣装替え(1回目)がありますが、サスペンダー姿と言うのが非常に新鮮でした。DVDで初めて気付いた点としては、ベストと上着を同時に着ているのですね。どうりで、早い着替えだと思いました。

宝塚宙組東京特別公演「ヴァレンチノ」13時回を観劇。
客入りが悪くなるといわれる“ニッパチ”を物ともしない、大盛況の客席でした。花組生も来ていたようです。

船長@寿つかさが「君、英語が喋れるの」と言うと「いいえ、日本語です」と思い、ジューン@野々すみ花が「確かにラテン系の顔ね」と言うと「いいえ、“平たい顔族”です」と思う。
……そんな野暮な突っ込みを入れても、この作品はまったく揺らぐことがなく楽しめると言うことが、嬉しいです。

何度観ても、ラストの5分は贅沢な構成ですね。
ジューンがルディの幻と共にオレンジの枝の向こう側へ去る、その背中で幕が降りても素晴らしい舞台だったと思うし、その次のジョージの独白で終わっても綺麗に終わります。でも、最後にもう一度ジューンのバンガローが現われ、新しい未来を見せてくれる御陰で、あたたかい気持ちで劇場を出ることができます。
小池先生の作品は「エンターテイメント」として優れていると常々思っていましたが、デビュー作からそうだったのだな、と感心しました。
それにしても、幕が下りるのが早くなったのは、わざとなのでしょうか。ジューンがオレンジを受け取るところまでちゃんと観られるのかどうか、初日も今日もハラハラしました。

公演期間が短いので、これで私の手持ちチケットは終了。でも、1回ごとが濃密で、大満足でした。
屈託ない明るさを愛しく思い、自信なさげな姿は応援したくなる、みんなのアイドル・ルディ。いままでとは違う新しい大空祐飛との、本当に素敵な出会いでした。
でも、現在の結婚したい男No.1は、ジョージ@春風弥里です。

宝塚宙組東京特別公演「ヴァレンチノ」初日を観劇。

東日本大震災により、本来予定していた全日程が中止になった公演です。今回、公演期間と稽古日の合間を縫って、振替公演が実際されました。
5ヶ月の時を超えて再び相見える「ヴァレンチノ」が楽しみ過ぎて、朝は5時に目が覚めました。ちなみに、公演は16時から(笑)。

初日なのに、舞台も客席も笑って泣いて、熱く盛り上がった2時間半でした。
客席が細かいネタも拾ってよく笑うので、1幕はコメディ色が強く出てきました。その分、2幕の人間ドラマも色濃くなった気がします。
1ヵ所、2幕パーティ会場でセットの一部が降下途中に曲がって設置できなくなるトラブルがありました。が、問題なく続行して安心しました。

ルディ@大空祐飛は、とにかく1幕の可愛らしさが反則的ですが、その若さが自然になった気がします。以降のシーンでもルディの感情が分かりやすくなり、脚本の軸がスッキリと見えてきました。
ジューン@野々すみ花は、梅田から大きく変わっていない印象ですが、こういった地に足の着いた役だと、演技力の高さを改めて実感します。ジョージからの電話を取ったまま客席に背中を向けるシーンでは、音も、台詞も、表情も、舞台上の共演者もなく、ただ背中で語る珠玉の演技を見ました。
デ・ソウル@悠未ひろは、1幕では登場した瞬間から笑われていましたが、2幕はガラリと雰囲気が硬質になって格好よかったです。クラブ21は、少しマイルドな表現に変わったでしょうか?
ジョージ@春風弥里は、明るくて優しくて面白くて良い奴な上に、ルディを温かく見詰める眼差しは包容力が溢れていて、もう満点を付けたい男。
ジューンとは大学でサークルが一緒だった、などと設定を勝手に妄想してしまいました。
ナターシャ@七海ひろきは、やはり迫力のある美人。
カーテンコール2回目のお辞儀だけ、ドレスを着ているのに男役のお辞儀をしていました。ちょっとしたうっかりだと思いますが、男役が染み付いているのだな、と逆に好印象でした。
ラスキー@寿つかさは、底知れない怖さが醸し出されていました。細かい所では、「ムッシュ・ボーケール」の撮影シーンでストップモーションになり、八百屋舞台の床が移動する間も微動しないバランス感覚に感動しました。
メロソープ@天羽珠紀は、前公演の休演から無事復帰したことに、まず安心しました。相変わらず歌もバッチリ、妖しい占い師でした。
ナジモヴァ@純矢ちとせは、はまり役。元男役の大きさを生かした配役だと思います。
ビーブ@妃宮さくらは、可愛らしさが増したような印象。退団予定を延ばしてこの公演に出演してくれたことに、心から感謝です。
鳳樹いちは、ジョニー役も台詞の間が巧くて名司会という感じですが、実は細かい出番で踊っている時が好きです。
蒼羽りくは、とにかく小芝居が多くて、芝居への意欲を感じました。今後、悪目立ちしないようにしつつ、この方向性で頑張って欲しいです。
星吹彩翔は、クラブ21のダンサーやフィナーレが格好良くて目を奪われました。結構良い位置で踊ってますよね。ファン役の女装も、意外とチャーミング。
光海舞人は、職にあぶれたエキストラ役が、侘しさの中にも気の良さそうな雰囲気があって、注目しました。
その他、30人しかいないとは思えないくらい舞台がホットで、全員が生き生きしていました。

主演挨拶では、公演中止による強制的な役との別れは、役者にとっても消化不良だったと正直な告白がありました。その言葉通り、この貴重な機会に、全力で「昇華」しようとしている気持ちが伝わってくる熱演です。
梅田DC初日に感じた伸び代を、目一杯埋めて持ってきた東京初日。でも客席からの熱く温かい拍手が、更に成長を促すのでは、と期待しています。