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有川浩著「キケン 成南電機工科大学機械制御研究部」

【あらすじ】
機械制御研究部(通称【機研】)が、「ユナ・ボマー」と渾名される部長に率いられ、犯罪スレスレの「キケン」行為を繰り返した黄金時代の物語。

レーベルが違えば「ライトノベル」扱いになりそうな軽い作品。
疾走感全開で、無駄なエネルギーが沢山放出されていて、男子大学生の学生時代の打ち込みってこうだよな、と頷かされます。そして、そこまで全力で馬鹿なことに取り組んでいたからこそ、少し年月を開けてから訪れることへの躊躇も分かる気がしました。
最初のうちは、各短編の最後に「…ということがあった」と語っている形式である元部員と妻の現在の掛け合いが入る構成に鼻白んだのですが、物語の締めかたを見て、作者が語りたかったことはこの形でなければ書けなかったのかも、と納得しました。
ただ、この締めかたはメインである【機研】での出来事と関係しないため、全体を通してのストーリー性はあまりなく、盛り上がりには欠けました。1エピソードずつが面白い、という短編集の作りですね。

なお最後の仕掛けに関しては、教室に入ったところでページをめくらされて、ちょうど見開きになるというページ割りが巧いと思いました。私が読んだのは文庫版ですが、当然単行本版もこうなるように調整してあるのでしょうね。

年齢が若い人物しかいないこともあってか、全体的にキャラクターが生き生きしていました。
最初のうちは、描写がメインの4人にほぼ集中していましたが、後半から他の部員にもスポットライトが当たって、より群像劇のような、ガヤガヤした感じが強まった気がします。
ストーリー的に盛り上がるのは学園祭の話かと思いますが、個人的には【機研】的な活動をしている、ロボコン大会と空気銃製造の話が楽しかったです。

榛名しおり著「王女リーズ テューダー朝の青い瞳」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
異母姉メアリの虐待により口を聞かなくなり、知恵遅れと思われていた英国王女リーズだが、。護衛官セシルとの恋を経て、大英帝国の女王へと開花していく。

今年は、イギリスのテューダー朝後期を扱う舞台作品が続いていることもあり、勉強も兼ねて読んでみました。

少女時代に読んでいた、懐かしの講談社ホワイトハートX文庫です。微妙に分厚い文庫を手に取って、懐かしさに浸りました。私はファンタジー路線の方を読んでいたのですが、今は恋愛路線で残ってるのかな?

本作もロマンス小説ですが、意外と、といっては失礼なくらい真面目な歴史小説でした。もちろん、史実の設定を下敷きにした創作であって、決して史実を描いた作品ではありませんが、英国の複雑な背景・系譜が分かりやすく説明されているので、エリザベス女王の即位した前後の時代に大変興味が湧きました。
逆にセシルとの関係は、身分差という障壁、ライバルの存在、波瀾万丈の人生など恋が盛り上がる要素はあるのに、読んでいてもそこまで燃え上がりませんでした。リーズの立場をどう変えていくのか、という点が物語の焦点になっていて、恋はあくまで物語を展開させる一要素であったりスパイスであったりという印象です。

終盤のメアリを打ちのめすシーンは、リーズが神格化され過ぎていて少し物足りなかった気がするけれど、そこに至るまでの波瀾万丈は楽しめました。
キャラクターでは、アン・ブーリンを愛し続けるクルス侯爵が良かったです。

水鏡希人著「君のための物語」

【あらすじ】
身投げした女性を助けようとして川に落ちた作家志望の「私」は、その女性セリアと、奇妙な男レーイに助けられる——

近代ヨーロッパを彷彿とさせる世界で綴られる、ファンタジックで心温まる物語。

連作短編構成で、セリアを媒介とした、「私」とレーイの物語になっています。
タイトルの「君」が誰なのか、最後に分かって一本取られました。
静かな雰囲気の作品ですが、くすっと笑える要素もあります。主人公が驚いたときに発するお約束の「ぬはぁ!」に、なぜか神坂一やあかほりさとるの要素を感じました。

満足度は高かったけれど、後編で明かされるレーイの正体は、もう少し理屈を飛び越えた展開が欲しかった気がします。あるいは、謎のままでも良かったのかなぁ。妙にスケールダウンしてしまった気がしました。

伏見つかさ著「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
高坂京介は、不仲な妹・桐乃が、重度の「妹萌え」オタクだと知ってしまった。以来、無理矢理エロゲーを遊ばされたり、桐乃がオタク趣味の友達を作るのに協力させられるなどの経験を経て、その世界は理解できないながらも、オタクに対する偏見を捨てていく。やがて桐乃の趣味がサブカルチャーを否定する父に見付かってしまうが、京介は桐乃のオタクとしての一面も受け入れるよう身を張って説得する。

いまさら有名ライトノベルを読んでみるシリーズ。

“冷戦状態の兄を持つオタク妹”である私としては、読み終えた当初、諸々が腑に落ちなかったのですが、あることに気付いて納得しました。
ツンデレは妹でなく、兄(主人公)の方だったんですね。
「私の兄がこんなにツンデレなわけがない」状態。
作中では妹に興味がないような事を言っているけれど、妹を意識し過ぎで、言動が一致していないと思いました。

もっと分かりやすい妹萌えのお話かと思いきや、オタクと世間の風当たり(理解)がテーマの作品だったので、驚きました。
最終的に、妹・桐乃を可愛く思えるか否かで反応が割れそうです。
私は、残念ながら可愛くないと思いました。
まず、実際にあるかも知れないけれど、14歳の桐乃が18禁エロゲーを遊んでいるという点は擁護し難いですね。小説だからこそ、こういう設定は好ましくないと思うし、エロゲーを遊ぶ妹というインパクトのある設定を作りたかったのだとしても、最後に父親から正論を言われた時点で、反省すべきだったと思います。
そして、最終的に庇ってくれた兄に対して感謝する描写がない、というのが致命的でした。
幸運なことに私はオープンオタクなので、オタク趣味を打ち明けられないという苦しみを実感していないから、桐乃に共感できないだけかしら。でも、オタクだからこそ「自分の特異な趣味を強要しない」とか、「自分の萌えは他人の萎え」と思えとか、色々自制すべき点があると思っています。

イラストは可愛いです。表紙のトーンで挿絵も描かれています。
また、幼馴染みの地味娘、麻奈実は可愛いと思いました。

須賀しのぶ著「流血女神伝 帝国の娘」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
猟師の娘カリエは、北公に拐かされ、病床にある第三皇子の影武者となるよう強要される。皇子の忠実な従者エドに教育され男装したカリエは、他の皇子たちと共に次期皇帝を目指す日々を送る。しかし、第三皇子はカリエと再び入れ替わることなく亡くなってしまう。北公の命を受けカリエを殺し、自身も死のうと計るエドに、カリエは共に生き抜くことを持ち掛ける。

いかにもコバルト文庫らしい、少女向けライトノベル。
軽妙な文体なので手軽に読み進められます。

展開的には予想通り進むけれど、それは王道の面白さということで安心して楽しめます。
身代わり教育がそんなすぐ身に付くか、と突っ込みたくもなるけれど、不屈の主人公カリエのキャラクターに魅せられたので不問に。もっと暗い物語になってもおかしくないところを、彼女の性格が救っていると思います。その他のキャラクターも、自分の立場や信念に基づいて行動しており、概ね好感が持てます。

細かく設定された世界観に、異世界ファンタジーを書く作者の一番楽しいところは歴史作りですよね、と勝手に親近感を覚えました。

上下巻で一応区切りは付いているものの、実際はシリーズの開幕という位置付けで、明かされていない謎が残っています。
スッキリしたいけれど、コバルトってシリーズ化すると長いんですよね。本作も全27巻だそうで、手を出すべきか悩みます。