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大空祐飛さよなら特集10日目。最終回です。

2作目、宝塚大劇場&東京宝塚劇場公演「カサブランカ」。
→公演詳細

大劇場お披露目にして最高傑作を演った、と今でも思っています。
原作映画ファンとして納得のいく舞台化であり、宝塚自体のファンとしても色々に役と見所があり楽しかったです。
特に、リックのカフェの面々は、個性豊かで可愛くも頼もしい最高の仲間だったと思っています。

最高の仲間たち

……最後の最後に似せるのを断念。寿つかさ組長演じるカールも描きたかったけれど、難易度が高過ぎました。

あれから退団した者、異動した者、様々ですが、特にリックのカフェの面々が退団を迎える舞台の上に全員揃っていないのは、非常に残念です。

さて、退団祭りはこれにて終了。丁度、本日が本拠地宝塚大劇場での千秋楽でした。
今回は遠征出来なかったので、東京で宙組の仲間たちをお待ちしています。

 深夜のカジノで、回転盤にボールを投げ込む音が響いた。
 軽快な音を立てて走ったボールが、やがて勢いを失いポケットへ吸い込まれていく。エミールは見えざる客にボールの落ちた数字を告げた。
 無論、プレイマットの上には一枚のチップも張られていない。だが視線を向けたそこに赤のチップが置かれているような気がして、エミールは瞼を閉じた。
 あんな惨めなゲームは初めてだった。
 何度投げても、あの客が張った数字にばかりボールは落ちていった。まるで負ける為に投げているような恐怖がエミールを襲い、誰でも良いから代わってくれと叫び出すところだった。
 その時、不意に扉が開く音がして、エミールは顔を上げた。
「まだ着替えてなかったのか」
 扉から顔を覗かせたのはサッシャだった。間もなく夜間外出禁止時間だと言うのに、エミールが出てくるのを待っていたらしい。無論、エミールはその理由を知っていた。同じ店で働く仲間と言うだけでない、もう一つの顔を彼等は共有している。
「ああ……いや、もう帰る」
 だが、エミールは緩く首を振った。こんな日は、する事を変えても碌な事にならない。水でも浴びて寝てしまうほかない。
 蝶ネクタイを緩めて息を吐き出す。それだけの動作が億劫で、顔を顰めた。
「おい、本気か? 冗談だろ?」
 眼差しの奥に常以上に強い光を見つけ、エミールは戸惑った。今夜の集会は、他の地域で活動する同志との情報交換でも、予定されていただろうか。
「そうか、お前表に来てないから知らないのか」
 なにを納得したのか、サッシャは二度頷くと、誰もいないカジノを見渡してから、大股でエミールに近付く。そして囁くように小さく、けれど軽快な音で彼は告げた。
「ヴィクター・ラズロが来てる!」
 職業柄表情が変わり難いエミールも、さすがに瞠目しサッシャを見た。
「集会に来られるのか? 見張りがついてるだろう」
 ナチスの収容所脱出に成功した英雄の周囲には、崇拝者の数だけ監視の眼も付いているはずだ。


以前(2010年1月20日記事「深夜のカジノにて」)書き掛け途中のままにしていた宙組公演「カサブランカ」SSの続き。タイトルは変更しました。
この後オーナー登場ですが、会話や展開の細かいところが決まっていないので、いつ出来上がるやら……。

最終回。お芝居のラストまで。

【2幕第15場 本当のリック】
リックは自分の道を決心する。ルノーを呼び出したリックは、通行証を物的証拠に、ラズロに外交官殺害の罪を着せて捕まえ、自分はイルザと共にカサブランカを発つと言う目論見を話す。

東京公演では、リックが伴奏の合図を出すのがどんどん遅くなって、凄い長いタメがあったのですが、DVDではスムーズに前場から繋がっています。
1回目の「本当の俺はどう生きる?」と言うフレーズに大変強い力が籠っていて、リックが自分の道を全力で模索していることがダイレクトに伝わりました。
元々リックは国外退去命令を受けた身ですから、米国を目指してもリスボンまでしか行けない。だから、平和な土地=米国へ逃げて欲しいと言うラズロの頼みを叶える事は、元々不可能なのですよね。
リック自身も、イルザの愛を手に入れた後のことは考えていなかった気がします。だから想いが通じ合っていたことが分ければ、それで満足して、その先へ進む事が出来たのではないでしょうか。

【2幕第16場 カフェ(最後の夜)】
リックはラズロをルノーに差し出すと見せ掛け、彼を脅して空港に連絡させる。しかしルノーはシュトラッサーへの直通ラインに電話を掛け、異変を示唆する。

ルノーが出し抜かれたと思いきや、一発逆転の電話をかける瞬間は映画では緊迫のシーンですが、この舞台版ルノーだと、ここで少佐に電話したことに少し違和感を感じます。映画のルノー署長はリックをどう思っているのか、ラストシーンまで分からないし、そもそも本人も判断していなかったと思うのですが、北翔演じるルノー大尉はリックを好きなのが最初から明確なので、少佐に引き渡しそうにないと思ってしまうのです。

【2幕第17場 空港】
リックは通行証にラズロとイルザの名前を書き込ませ、二人を飛行機に乗せる。遅れてシュトラッサーが到着し、飛行機を止めようとしたので、リックは発砲する。ルノーはリックを検挙せず、レジスタンス基地へ送り届ける。

飛行機に乗るように諭されたイルザの右目に、涙が浮かんでいるのは良いのですが、ちょっと鼻水出てますよね……?(笑)
「泣き」の芝居で本当に涙を流すことが良い芝居だ、とは私は思わないのですが、それでも野々の素晴らしいタイミングで流れる涙は凄いと思うし、洟垂らしちゃうと言う事は、技術的に泣いてるのではなく本当に感情が昂って泣いてる訳だから、ある意味毎公演その役になりきれる彼女は、もの凄い「北島マヤ」だなと感心します。

映画のリックは、大尉と一緒に歩いて行くラストだったので、舞台版は「明日からの人生を独りだけで生きて行く」のが少し寂しいです。
でも、大尉を残す事は可能なのにリック一人のラストシーンに変更したのが、プロパガンダ映画から宝塚らしいラブストーリー芝居へ変更するための一つのポイントだとも思います。
一幕でヴィシー水の比喩を語っておきながら、最後にそれを活かさない事に疑問もあったのですが、DVDを繰り返し観ている内に、その変更も政治色を抜くためだと感じるようになりました。もっとも、それなら比喩も外すべきだったのかも知れませんが、多分そこは「砂漠で水が飲みたくて」と言う受け答えをさせたかったんじゃないかと邪推しております。

この後フィナーレがありますが、感想は割愛。これにて「カサブランカ」DVD感想を終了したいと思います。

クリスマスイブだから、愛の物語の続きを。
……いや、年内に終わらなそうで焦っているだけです(笑)。あと1回分で芝居は終わるかしら。

【2幕第11場 帰路】
ラズロはイルザに愛を告げると、再び集会に向かう。

交渉の結果を聞いて立ち尽くしたイルザはこの時、バザールでのリックの予言を思い出したことでしょう。
ラズロは言動に注目していると、イルザを確かに愛している優しさが分かるのですが、理知的過ぎて熱を感じない人なので、女性としては買ってながら物足りない気もします。
「おやすみなさい」と応えた時の、決意の眼差しが美しくてドキッとしました。

【2幕第12場 カフェ(閉店後)】
閉店後のカフェにイルザが忍び込み、リックに銃を突き付けると通行証を渡すよう告げる。しかしイルザは撃つことができず、リックを今も愛していることを自覚する。

「貴方が私をどう思っているか分かっているわ」の台詞に、最初イルザにはリックから愛されている自信があるのだと思って唸っていたのですが、私もイルザも誤解していたんですね。
イルザは、リックが自分を憎んでいると思っていたんですね。だと知れば、憎まれてる相手の所へ一人で出向く覚悟はいかほどだったでしょう。
銃を突き付けて通行証を要求する時の微笑みが不思議なのですが、テーブルの上に置く事を拒否された後から、撃てない自分を自覚するまでの変化が流石の演技巧者だと感心します。
なお、通常アングルだと、銃を突き付けられたリックの演技が細かく映っていないのですが、幸いここは「大空アングル」が用意されていて安心しました。が、吐き出す紫煙があんまり見えないのが残念です。

【2幕第13場 集会2】
レジスタンスの集会が襲撃されるが、ラズロは逃亡に成功する。

大尉が珍しく声を荒げていますが、それだけラズロが目障りになったのは、やはりカフェの閉鎖=自分の箱庭を壊されたと言う意識なんだろうと感じます。
それにしても、ジャンは報酬を受け取るためとは言え、態々捕り物に付き合うため、頻繁に深夜勤で大変ですね。朝も広場やバザールにいて、四六時中働いてますよね。スリや密告と言うのも、なかなか大変な稼業なんでしょうね。

【2幕第14場 カフェ(深夜)】
リックとイルザは互いの愛を確かめ合う。リックは、イルザからラズロに通行証を渡すよう頼まれるが、その後ラズロからも、イルザを連れて通行証を使って欧州を脱出するよう頼まれる。

イルザはこの時点で革命の闘士ではなくなっていますね。ただの恋している娘だと言う事が如実に分かります。もしリックと想いが通じた後でなかったら、問題を投げ出すことなく何らかの決断が出来たのではないでしょうか。恋は人を強くもするし、弱くもしますね。
「君の瞳に乾杯」の台詞に併せて、潤んだ上目使いのイルザのアップになるのは、映画を意識したアングルで素敵です。
それにしても、このデュエットソングは時差の勉強になるなぁ(笑)。

余裕だと思ってノンビリ進めていたら、いつの間にかもう年の瀬。少しペースを上げて4場進めます。

【2幕第7場 カジノ】
アニーナの夫ヤンはカジノで負け続けていた。リックはルーレットの勝てる目を教えて、二人に出国ビザを買う金を入手させる。

リックからエミールへの合図は舞台でも明確ですが、実は、背後でビゴーもルーレット台を伺いながら支払い用の小切手を用意しているんですよね。従業員たちのツーカーっぷりに、良い職場だなと思わされます。
サッシャが顛末を知ってニヤニヤしてるのに、大尉が通る瞬間だけ真面目そうな顔を作るのが面白いです。
観劇中は「イカサマはないのか」と問われたジャンが「まさか!」と仰々しく答える理由が分からなかったのですが、DVDで彼の視線と表情に注意して見ると、リックがイカサマを指示した事を知った上で、会心の笑みを浮かべてるように視えてきました。彼こそ大尉以上の蝙蝠だけれど、心はあくまでもフランス側なんですね。

なお、ルーレットの1目掛けは36倍の配当だそうです。一枚のチップが幾らなのか知りませんが、100フランだったとしても、2回全財産一目掛けしたら12万まで膨れ上がることに……!
店の損失を考えると、とんでもないですね。

【2幕第8場 オフィス】
ラズロはリックに特別通行証の譲渡を求めるが、リックは取引に応じず、その理由を「妻に聞け」と言う。

恐らくフェラーリに通行証の件を聞いた後、カフェでレジスタンスの面々からリックの事を聞いたのでしょうが、リックの過去を語る時の嬉しそうな表情からすると、スムーズに譲って貰える事を

【2幕第9場 カフェ】
ドイツ兵が軍歌を歌い店内を我が物顔で占拠している様を見たラズロは、フランス国歌を歌い出す。国歌は人々の合唱になり、面目を潰されたシュトラッサーはカフェの営業停止を命じる。

武力を使っていないけれど、これは正に戦いだと感じます。初めて観劇した大劇2日目の時点では、映画版の「歌のぶつかり合い」とは少し表現が違うこともあり、少し迫力に欠けるかなと思ったのですが、やはり名場面に仕上がりましたよね。何度リピートしても飽きない場面の一つです。
店長の許可も取らずシャンパンが振る舞われる辺り、やはりこの店の人たちって良いですよね。
激昂の余りナプキンを床に叩き付けるサッシャの若さが好きです。

【2幕第10場 シュトラッサーの屈辱】
シュトラッサーは誇りを傷付けられ、ラズロの強制送還を誓う。

ここと15場だけ場面名の系統が違う!と思わず笑ってしまいました。系統通りに名を付けるとしたら「カサブランカの街角」になるでしょうか。
舞台ではあまり気にしていなかったのですが、少佐以外の四人の軍人内でも、身長の差が結構ありますね。ここは全員長身で揃えて欲しかった気がします。