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モーリス・ルブラン著 平岡敦訳「怪盗紳士ルパン」

→「ルパン、最後の恋」の感想は、2013年4月24日記事参照

意識していませんでしたが、「最後の恋」と同じ方の訳でした。
洒脱で読みやすくて良かったです。

第一作「アルセーヌ・ルパンの逮捕」他9編を収録。
「アンベール夫人の金庫」はオチがよく分からなかったのですが、他は、ルパンの神出鬼没、変幻自在にしてフランス人らしい手の込んだ洒落っ気を楽しめました。
これらを読むと、「最後の恋」が推敲途中の原稿だと評されるのも当然だと感じました。完成度がまったく違います。
一番の傑作はやはり「アルセーヌ・ルパンの逮捕」だと思うけれど、牢屋に入っているのに華麗な盗みを働く「獄中のアルセーヌ・ルパン」や、ルブランと知り合う事件を描いた「ハートの7」等、それぞれ面白かったです。
最後の一編は「遅かりしシャーロック・ホームズ」。ホームズをしれっと登場させ、両雄を立てた上で、今後の二人の対決も期待させる内容になっています。

月組公演「ルパン」SS。


 狩りは英国貴族の嗜みである。
 オックスフォード公の私有地にも、広大な狩猟場がある。毎年狩りの季節になると、公爵家の男や招待客が足蹴く通い、哀れなキツネたちを追い立てるのだ。だが、公爵の長子エドモンドが足を踏み入れたのは、これが初めてのことであった。
 最後にならなければ良いが――と一瞬心に浮かんだ弱気を、カーペットは直ぐに振り払った。
 彼の主人エドモンドは、生まれつき身体が弱く、それ以上に精神が薄弱である。それを恥じた家族から遠ざけられ、ろくな教育も受けずにこの歳まで長じてしまった。
 カーペットは愚鈍な主人に幾度も暗然たる思いを抱き、同じだけ感謝の念も抱いた。
 爵位を持たぬカーペットでも、エドモンドという青白い人形を操ることで世の中を動かせるかもしれない。野心は人生に彩りを与え、才覚を試す緊張は快感を生んだ。これほど面白いゲームが、他の主人の下で味わえるだろうか。
 その主人は、車から降りた位置のまま、オドオドと辺りを見回していた。馬に乗れず、犬を恐れるエドモンドは、狩猟地に来るのにも自動車である。格好が付かないこと甚だしいが、無理をさせて、また喘息を引き起こすよりマシだ。
 カーペットが主人を狩猟地へ連れてきたのは、このエドモンドに自信を持たせるためだった。エドモンドが冴えないのは持病のためで、それさえ克服できれば他の兄弟に劣るものでない——と。
 そんな幻想は、カーペット自身が信じていなかったけれど、必要なのは事実でない。


……と言う書き出しで、オックスフォード公(爵位継承前)とカーペットのお話を書いています。しかし意外に長くなりそうなので一旦この辺で公開。ちなみに、永遠に後編が出来ない可能性もあります。

自分の婚約披露宴で「カーペットが生きてここに居てくれたら」と嘆き悲しむオックスフォード公があまりに本気で、色々考えさせられました。
カーペットは、打算前提ですが、味噌っかすにされていた主人をよく守り立てていたのだろうと思います。だとすれば、エドモンドにとっては良い部下、親友だったのだと思います。

転じて、「テイルズオブジアビス」のガイが根から腹黒かったら、屋敷時代のルークとガイの人間関係がこうなっていた可能性もあるのか?と妄想させられました。

宝塚月組「ルパン/Fantastic Energy!」11:00回を観劇。

トップスターが龍真咲に代わってから、初めての月組観劇です。
久し振りの月組に関しては“スター格の生徒が全員歌える”ことが素晴らしいと思いました。“歌劇団”を名乗るなら、各組主要キャストはこのくらいの歌唱力を備えて欲しいものです。

まずは芝居「ルパン −ARSÈNE LUPIN−」。
原作「ルパン、最後の恋」の感想は、2013年4月24日記事参照
原作にないキャラクターを加えたり、展開を変更していましたが、全体的には原作と同様、粛々と進む作品。良くも悪くも、正塚先生らしい地味な舞台でした。
年齢設定は曖昧にされ、結果として演者の実年齢に沿った「美青年たちのお話」になっていたため、国家レベルの陰謀というほど大きな事件には感じられなかったのが残念です。月組のフレッシュ感と兼ね合う、軽い作品が宛書きされると良いですね。

ショー「Fantastic Energy!」は、中村一徳先生の定番パターンで歌いまくり踊りまくりの1時間。トップスピードで駆け抜けた印象で、発散できて非常に楽しかったです。
主要キャスト全員にソロ、銀橋、見せ場があり、スターを点呼するだけでもワクワクしました。

以下、キャスト評です。
ルパン@龍真咲は、しばらく観ない内に、真咲節というべき一癖ある節回しが成長(悪化)。ルパンというキャラクターには読者個々のイメージがあるため、少々難易度が高かったですね。ルパンではなく、ただのアルベール・ド・サブリーであったなら、評価できるのですが……。
マント捌きが綺麗なのは驚きました。
芝居で出遅れた分、ショーは攻めてきて良かったです。「格好よさ」と「カワイ子ぶりっこ」が半々な1人銀橋シーンが特にツボでした。

認識して観るのは初めての、カーラ@愛希れいか。決して美人ではないけれど、可愛いかったです。
高貴の身だけれど気さくな雰囲気で、親しみが持てる女性を巧く演じていました。
ショーでは、きびきびとした切れの良いダンスが男前。男役に対しては、一歩退いて尽くしている感じがしましたが、元男役という押し出しの強さを持つ娘役なので、前に出て来ても良いのでないかな、と思いました。

ルブラン@北翔海莉は、専科から特別出演という名に恥じぬ、実力の違いを見せ付けました。
芝居は、立ち位置が中途半端な役。主人公とヒロインのラブシーンにおいて、傍観者としてその場にいる、という絵図には唖然としました。最後のキスシーン前に、ルパンがルブランがいないことを確認するオチはウィットが効いていたけれど、その為に作中のラブシーンに違和感を残すほどの意義はないと思います。

目下、組内二番手争い中と思われる2人、まずドースン@凪七瑠海は、驚くほど巧くなっていました。月組だと華奢な体型も目立たず、今回の組替えは良い方向に転ぶのでは。
ヘアフォール伯爵@美弥るりかは、出番と台詞の割にしどころのない役で勿体ない使われ方。あれこれ註釈する必要なく美形でした。

トニー・カーペット@沙央くらまは、珍しく悪役。“カーラが拒絶して当然”な気味の悪さがありました。もし彼がスターらしく格好良く作り込み、横恋慕キャラの悲哀を演じてしまうと、物語の善悪が歪むので、これが正解だと思います。
なお、原作では思いもしなかったのですが、オックスフォード公@宇月颯のカーペット依存が激しく、この2人で小話が書けそうな気がしました。

美味しかったのは、月組生え抜きコンビ、ガニマール@星条海斗フラヴィ@憧花ゆり。ガニマール警部がルパン大好きなコミカルキャラクターとして描かれて驚き、フラヴィエ判事が原作からこんな変貌したことも驚きましたが、月組が誇るコメディエンヌの絶妙な掛け合いが楽しめました。
ビクトワール@飛鳥裕ヘリンボーン@越乃リュウも、同様にコンビ芝居が良かったです。

「人殺し3人組」は、早い段階でルパンに降参して手下扱いになっていました。
リーダー格のフィナール@光月るうがなかなか巧み。
プス・カフェ@紫門ゆりやは、ナイフを取り出したときに腰が引けているヘタレになっていましたが、役者に合わせていて良かったです。
ドゥーブル・チェリク@綾月せりは、ビジュアルで差別化を図り、印象を残しました。

ジョゼファン@珠城りょうは、安定感と落ち着きがあり、もう若手の域を超えていると思いました。でも倒れ込むのは下手で、ちょっと安心(笑)。

最後に、芝居の道路作りシーンで最初に歌い出す男役(蓮つかさ)が素晴らしい歌唱を披露し、感動しました。

モーリス・ルブラン著 平岡敦訳「ルパン、最後の恋」

2012年に出版されたシリーズ最終作と、シリーズ第1作の初出版(未改稿版)をセットにした1冊。
普通の単行本より縦長でスマートな形態。お洒落でありながら、小口が黄色くて古めかしい印象もあり、雰囲気のある装丁です。

ルパンシリーズは初めて手に取りました。
思ったよりも淡々と進むので、少し戸惑いました。4人の男の誰がルパンか推理させるのかと思いきや本人があっさり告白するし、いつの間にか恋に落ちているし、なぜ問題の本が狙われるのかもよくわからなかった。ミステリー小説ならお約束だと思っていた、緻密なトリックや伏線がまったくないのです。メリハリに欠けるので、真犯人が判明しても驚きもありません。
この作品は作者の遺稿であり、推敲途中だったという巻末の説明に、大変納得しました。
要するに、骨だけで肉付けがまったく足りないお話なのですね。
でもつまらない作品なのかというと、騎士道精神溢れるルパンというキャラクターの魅力で、結構楽しく読めました。
個人的には、副題が「最後の恋」である表題作のみならず、第1作から女性とのロマンスが含まれていたのが、フランス人らしいところかな、と思いました。最初の作品と最後の作品でテーマが通じているように見えるのが面白いですね。

小説の主人公は感じがよくなければならない
――本書付録より

というルブランの考えは、私も指標にしようと思いました。