米原弘樹著「ハイスクール歌劇団 男組」
【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
高校三年の弘樹は、推薦入試の作文に書く「高校生活の思い出」がないことから、宝塚ファンの友人に推され、文化祭で男子高校生だけの宝塚再現をすることになった。全力で努力することを格好悪いと敬遠していた弘樹や仲間たちだったが、次第に舞台の魅力に引き込まれる。主役をやりきり、なりきれば「自信のある自分」になれることを知った弘樹は、自分を試すため受験へ転向することを考え始める。
2012年放送のテレビドラマ「ハイスクール歌劇団☆男組」の小説版。
ドラマは放送当時に視聴しています。
ストーリーラインが単純ということもあって、非常にサクサクと読めました。
たしか、ドラマ版では憧れのマドンナである早瀬まどかが宝塚ファンだ、ということに比重がある「ウォーターボーイズ」タイプだったと記憶していますが、小説版の導入は受験対策であって、まどかの存在はそこまで大きくないのですね。その辺は、進学校らしい理由だなと思いました。生徒数もグッと少なく、現実的な線を突いています。
実際の宝塚に慣れ親しんでいると、一本物の芝居を観に行っているのに「レビュー前に30分の休憩がある」という箇所で引っ掛かったり、誤字(人物名の間違い)で躓かされたりしましたが、舞台への情熱、演じるということが存分に盛り込まれていて、面白かったです。
なにより、これは小説だけれど、実際に東海高校「カヅラカタ歌劇団」という元ネタがあるという事実の重みも感じます。
やる気を見せるのが格好悪いと思う、安定思考な男子高校生たちの悩みは、身近なことに終始していて、その「普通」っぽさと、宝塚をやるという突飛さが面白味になっていると思います。
また、慶介がティボルトのソロ(本当の俺じゃない)への共感を語るところなどは、私にはない観劇観点なので興味深く読みました。
ところで、著者名の「米原弘樹」は主人公名であり、本作の他に著書がないことから、便宜上のペンネームだと思われます。そして著作一覧が記される箇所に、なぜか「タンブリング」の米井理子先生の名前があるので、実際に描かれたのは米井先生ということなのかな……と思っています。